ソフトバンクに見る経営者の引き際の難しさ

2016年6月初頭、ソフトバンクの孫氏が、160億円以上かけてスカウトしたニケシュ・アローラ副社長に「ニケシュ、すまないけど僕はまだ社長を続けたいんだ」と告げ、続投の意思を表明したことはまだ記憶に新しいと思います。

 

これまで、ソフトバンクの孫氏は重要な経営判断をする度に、株主やマスコミなどから様々な批判を受けてきましたが、そのたびに結果を出し続けてきました。しかし、今回ばかりは結果が良かれ悪かれ、判断ミスをしたと私たちは考えています。

 

実務においても、私たちはこのような場面に遭遇することが実は多いのです。この様な発言の裏には、いろいろな背景が考えられ、例えば「事業承継計画を進めてきたが、どうも自分と後継者の考え方が違う。将来構想にずれがある。」というものから、孫氏と同じように「このままでは会社の業績が心配だから、もう少し様子を見てからにしたい」というものまでさまざまです。

 

しかしながら、これを告げられた後継者はたまったものではありません。これまで準備を周到にしてきて、社内外にも挨拶をして、引き継ぎも済ませていた場合は、社内外からどのような見方をされるでしょうか?それは、再びもとの経営者路線に戻ることを意味し、後継者の推進力の弱体化を進めるだけでなく、同時に会社自体の信用力の欠如にも繋がりかねないのです。

 

こうならないためには、何が必要なのでしょうか。まずは後継者面談が重要だと言えるでしょう。

「当社の大切にすべき顧客は誰か?」
「当社が良い社員といえるのはどのような社員か?」
「AとBという経営判断を下す時に、もっとも重要な要素は何か?」

といった、いわゆる経営理念を徹底的に話合うことが重要なのです。もちろん、意見が合わないこともあると思いますが、それは、どの部分について意見が合わないのか、後継者の意見を尊重させていい部分かどうかを確認する意味でも非常に重要な作業になるのです。

一方で、業績のブレや経営者の気持ち次第で社長交代が反故にならないように、私たちは、事業承継計画表を作り、家族会議などで議事録を取って押印してもらったり、金融機関を同席させて、公然の事実を作りあげるというプロセスを行ったりします。

もちろん、株式の移転についても、暦年贈与で課税の範囲内(110万円)で行う様なことはしません。一気に株式移転も実行させて、後戻りのできない状況を作りだすのです。

 

こうしますと、そんな強引なことをしたら結果は悪くなるのではないか?と思われるかもしれませんが、「やはり計画通りに事業承継を進めてよかった。」という感謝の言葉を頂くことが圧倒的に多いです。それは、私たちの主催する後継者塾に参加していて、既に社長交代により経営者になってる方々の意見を聞くとよくわかります。具体的には以下の様な意見なのですが、

 

「業績下降期は、立て直しや新規事業の開発などで苦労するが、それがあったらから、社長として強くなれた。」

という意見がある一方で、

「業績上昇期は、利益が出て当たり前と思われるし、赤字にでもなろうものなら、無言のプレッシャーを受けるがそれが緊張感に繋がってよい。」

という意見もあります。

つまり、どちらでバトンタッチしても、いい面も悪い面もあるということなのです。だったら、当初の予定通り事業承継を着々と進めるべきだというのが、私たちの導き出した回答です。

 

もし、「○○○よ、(後継者の名前)。すまないけど僕はまだ社長を続けたいんだ」と告げられてほっとした表情を見せる後継者がいたら、その人物は後継者に相応しくないかもしれません。

そこで、「どうしても、自分に予定通り継がせてほしいので、任せてほしい」といえるように育てるのが、経営者の役目と言えるでしょう。

金子 一徳

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