相続人と相続分 その2 遺留分放棄の事例

前回は、遺留分についての基礎的なお話をしました。
今回は、具体的な事例をお話しましょう。

ある社長と奥様を交えてお話しをしていたら、奥様が席を立った時にこんなことをぼそっと相談されました。
「実は先妻との間にできた子供がいるんだが、その子供に遺留分を放棄させたい。妻は俺の相続になった時に、
突然会ったことのない腹違いの兄弟が出てきて、『俺にも財産をもらう権利がある』って言われたら可哀そうだ、
って言うんだよ。何とかならないんだろうか。」

そこで、遺留分の生前放棄のお話しをしました。

きっと、離婚されたのには理由があるのでしょうが、それを敢えて聞かずに、そっと言いました。
「たとえ先妻との間にできたお子様でも、子は子です。お子様には罪はないですもんね。小さい時から会ってなくても、
親の愛のあかしとして、何かしてあげたい、いくばくかの財産でよいならあげたいという気持ちはありますか?」

その社長は現金で3000万円を贈与したいという申し出でした。それがせめてもの罪滅ぼしだ、きっと今頃結婚して
俺の孫もできていることだろう、会うことはできないだろうが。。。という言葉を残したところで、今の奥様が戻ってきました…(汗)

このように、遺留分を放棄させる者への理解があって、常識のある方なら裁判所も認めることが圧倒的に多いのです。
(だいたい8~9割は許可が出ます)

ところで、相続の生前放棄はできない、というお話しをしましたが、お子様に遺留分放棄をしてもらった後で、この社長には
遺言を書き直してもらいました。

なぜ、そんなことをするのか?

ここからややこしいのですが、『遺留分の放棄』は『相続の放棄』ではないと何度も言いました。
どういうことかと言うと、相続が開始すると、遺留分を放棄した人も、依然として相続人になっちゃうんですね、
これが不思議なんですが(笑)。

このため、被相続人である社長が先妻との間のお子様の遺留分の放棄によって自分は自由分100%を得られますが、
これを遺言によって活用しないと、遺留分を放棄したお子様以外の相続人にとっては、実質上なんのメリットもないことになり、
法定相続分で相続しなければならないことになります。ですから、きちんと遺言を書く(あるいは書き直す)という行為が必要に
なるんです。くれぐれも注意してくださいね。