贈与とは何か?

贈与というのは、民法で「当事者の一方が自己の財産を、無償で相手方に与える意思表示をして、相手方が受諾することによって、その効力を生ずる契約である」と定められています。

簡単に言いますと、あげる方(これを贈与者という)が「この土地と現金をあなたにあげるね。」と言い、もらう方(これを受贈者という)が「はい、わかりました。ありがとうございます。」と言った時に契約が成立するわけです。

つまり、一方的にあげるという遺言とは本質的に異なる行為になります。

それに、受贈者が「○○○をもらう」という約束をした直後に亡くなったとしても、受贈者の配偶者やその子は、その贈与の権利を引き継ぐことはできません。

一方、相続では代襲相続という制度がありますので、この点でも違いがあります。贈与は、あくまで贈与者と受贈者の2人の間だけで成り立つ行為ということですね。

さて、この贈与ですが、契約書をわざわざ作る必要もなく、口約束だけでも構いません。

ただし、口約束だけでは、心もとないときや後でトラブルことのないようにするには、やはり贈与契約書を作成して双方の押印をしておくべきでしょう。

作っておけば、証拠にもなり、強制力もあります。

なぜなら、民法では、契約書による贈与でない場合は、「実際にそれを実行しなければ、後で取消すことができる」とされているからです。

例えば、「宝くじで3億円当たったら、1億円あげるよ。」といって、「サンキュー、嬉しいな。」という何気ない会話であっても贈与契約は成り立ちますが、実際に3億円に当選したとしても、後から、「1億円あげる約束したけど、あれは冗談だよ。」と言って取り消すことができるのです。(信頼関係も取り消すことになるでしょうが(笑))

もちろん、1億円をあげた後で、これを取り消すことはできません、念のため。

さて、この贈与ですが、一般的にイメージするのは、上記のように双方が生きているうちに贈与をするといういわゆる<生前贈与>だと思われます。

しかし、「私が死んだら、1億円をあげます。」「はい、わかりました。」というような、贈与者の死亡を条件とした<死因贈与>という契約を結ぶこともできます。

贈与者の死亡が効力発生の条件となる点が遺贈と共通することから、民法では遺贈に関する規定を死因贈与にも準用するとしています。(民法554条)

こうしたこともあって、その贈与された財産にかかる税金は贈与税ではなく相続税の対象となるのです。(不動産を死因贈与した場合、不動産取得税がかかりますので、法定相続人に対しては、通常の相続よりも少し税負担が重くなるでしょう)

相続人以外の人に財産を渡すためには、遺言を作成するのが一番いいわけですが、遺言がないんだけど、「俺が死んだらA子に1億円渡してやってくれ!」という故人の生前の意思を尊重しようと思ったら、相続人が一度相続をして、相続人が改めてその財産をA子に贈与することになります。

ということは、相続税がいったんかかってから、さらに贈与税がかかることになるので、負担が大きくなってしまうんですね。(二重課税だろ!と思わず突っ込みたくなります)

しかし、死因贈与契約書をA子と結んでいれば、亡くなった人から受贈者に直接財産が移りますので、相続税だけになり大きな負担をしなくて済みます。

「俺が死んだら、1億円をあげる。」というのは遺言ではないのですが、死因贈与という別の形を取りながら、結果としては遺言に近い財産の渡し方になるのです。

『負担付贈与』というものがあります。

例えば、「マンションをあげるから、残りの住宅ローンも支払ってくれ」というように子供に財産を贈与する代わりに、何らかの義務も同時に負担してもらおうという贈与のことを言います。

この時、プラスの財産(相続税評価額で計算)からマイナスの債務を引いた金額に、贈与税がかかるわけですが、この時注意しなくてはいけないのは、不動産等(土地・借地権・家屋・構築物など)の負担付贈与の場合は、相続税評価額ではなく売買時価で評価しなくてはいけないということです。

では、ここから応用編です。上記の二つを組み合わせて事業承継に応用するとしたら、こんな感じの『負担付死因贈与』はどうでしょうか?

例えば、妻がいなくて一人息子の子供は将来後継者に据えたいがまだ大学生であった場合に、信頼のおける他人の専務に対して、

「俺が死んだら、金銭と自社株式をあげる代わりに、息子を入社させてゆくゆくは、次の後継者として育ててほしい。そして社長交代の際には、息子に株式をすべて譲ってほしい。」

というような贈与の形態を取ることが可能です。

でも、信頼する専務だとしても自分が帝政をしく可能性も否定はできません。

そうならないためには、必ず契約書を作成し、自分が亡くなった後も契約書に書かれた約束を遂行してくれているかどうかを監督してくれる死因贈与執行者を指名しておくことが懸命です。

ところがこれでも、株式は専務から息子へ譲渡されるかどうかを担保することはかなり疑問です。

そこで、さらに有効な方法を考えてみましょう。

『受益者連続型信託』といって、自社株式を受託者に信託して、相続発生時に①専務に議決権という受益権を、②大学生の息子にそれ以外の財産上の利益をもらうことができる受益権を、それぞれ移転します。

そして息子が30歳になった時に信託は終了させ、受託者は信託財産の全てを息子に給付する、なんていう信託ができるんです。

自分の死後にも自分の意思を反映させる、これが信託の醍醐味です。

(Writer:金子一徳)