暦年課税制度の落とし穴

暦年課税制度というと、何だか難しい制度のように聞こえますが、これはよく皆さんが知っている、1年間(1/1~12/31まで)に贈与を受けた財産の合計額から110万円の基礎控除を差し引いた残額に課税するという、もっともオーソドックスに財産を移転させる方法のことです。

ということは、逆に言えば1年間に110万円までの贈与を受けるのであれば、無税だということです。

相続時精算課税制度は、相続時にその贈与財産と相続財産を合計した価格をもとにして相続税を計算し、相続税からすでに支払った贈与税を控除するわけですが、それとは違って、贈与してしまったら、そこで既に財産の移転が終わっていると考えるところが、この暦年課税のスゴイところです。

つまり地道に110万円の贈与を続けていけば、トータルでかなりの節税が可能になるということです。

例えば、子が3人いて毎年110万円をそれぞれに贈与していくと、20年もすれば<3人×110万円×20年=6600万円>の贈与に対して無税ということになるわけですが、ここに大きな落とし穴があります。

それは、税務当局から、
『最初から6600万円の贈与をする意図があったのではないか。』

とみなされ(これを「連年贈与」と呼ぶ)、初年度に6600万円全額に対する課税をされてしまうという危険があるので、かなりの注意が必要です。

この連年贈与とみなされないためには、以下のことを実行しておくべきです。

① 贈与契約書を贈与のたびに作成し、「あげます」「もらいます」という意思確認をしておくこと。

② 贈与者の銀行口座から受贈者の銀行口座へ振り込み、その記録を残すこと。

③ 受贈者は自分名義の口座を自分自身の届け出印で作っておき、必ず口座開設の申し込みは本人が行うこと。(未成年者の場合は親権者で可)

これだけでも、実は危ういケースがあります。

それは①~③を贈与者側で一方的にしたのではないかと誤認されてしまう場合です。

そんな時には、さらに以下の手立てを講じるべきです。

④ 毎年違う時期に、違う金額、違う種類の財産で贈与を行う等、単発の贈与であることをあえて強調する。
(毎年同額でも別に構いませんが、あえて変える)

⑤ 受贈者側が通帳・印鑑・証書を保管し、自分の意思で贈与された財産を使ったり、他の財産を購入したりする。

⑥ 110万円をわずかに超える金額を贈与して、あえて受贈者が自ら贈与税を申告する。
(例:120万円の贈与の場合⇒(120万円-110万円)×10%=1万円の贈与税を申告し毎年払っておく)

さて、この110万円の基礎控除の適用は、受贈者単位です。

よって、長男がいて父から100万円、母から100万円の合計200万円の贈与を受けた場合、基礎控除が使えるのは200万円に対して1回のみとなります。

つまり、一人から贈与を受けた金額ではないということです。

ここが相続時精算課税制度との大きな違いです。

なお、相続開始前3年分の贈与は相続税の課税価格に加算され、支払い済みの贈与税は相続税額から控除します。

この制度には特例があって、配偶者から受ける贈与については、居住用財産の贈与に係る2000万円の特別控除があります。

これは、婚姻期間が20年以上である配偶者から、

①居住用の土地、借地権、家屋等の贈与を受け、翌年3月15日までに受贈者が居住し、かつその後も引き続き居住する見込みである場合、または
②居住用財産取得のための金銭を贈与により取得し、翌年3月15日までに居住用不動産を取得して、同日までに居住、かつその後も引き続いて居住する見込みである場合に、基礎控除と合わせて最高2110万円までの贈与税がかからない、ということになっています。

ちなみに相続税には相続開始前3年分の贈与は相続税の課税価格に加算されるという規定がありますが、この2000万円の配偶者控除は対象外となり、課税されません。

この特例は、同一の配偶者から一生に1回しか受けられません。

ということは、同一でないなら受けられる…

しかし、20年以上婚姻期間がないといけないわけですし、狙ってできるものではありません。

加藤茶や堺正章のように再婚する時に年の差婚が流行ってきているので、一生に2回使う人がそのうちたくさん出てくるかもしれませんね。(笑)

(Writer:金子一徳)