「事業承継士から見た事業承継支援の実例 前編」

一見、事業承継に問題のなさそうな企業がありました。
後継者は、社内をよくまとめていて、働き者、新規事業にも意欲があり、専務という肩書ではあるものの、実質的には、リーダーとして采配を奮っていました。代表取締役社長は、この専務の父親ですが、外部の会合や、金融機関対応、マスコミ対応など、をしており役割分担が一見出来ており、傍から見ても事業承継が間近という印象でした。
 ところが、弊社のコンサルタントとして入ってほしいという金融機関からの要請があったのです。不思議に思って、専務と社長にそれぞれインタビューしたところ、それぞれから次のような話があったのです…。

社長:「新規事業よりも、今のお客をもっと大切にしないとダメだといつも言っているんだが、言うことを 聞かないんだ。それに、従業員にもあんなに休みを取らせるなんて、、、もう少し働かせてもいいのに。」

専務:「現場に出てきて余計なことを言うのはまいったな。もう社長のやり方は古いんだけど、それがわかってない。早く引退してもらって、自分が名実ともに社長になりたいが、それがいつになるのか、不安なんですよ。」

この二人、どちらも間違ったことを言っているわけではありません。ただ、経営に対する考え方が違うだけなのはお分かりになるかと思います。

さて、こうした時に事業承継士はどうコンサルティングするべきか?これはかなりの難問です。事業承継で一番難しいのは、社長が事業承継をやろうと決断していない場合です。これを説得するのは、難問中の難問です。
まず、事業承継士が一番最初にするべきことは、社長の意見をトコトン聞いてあげる、ということです。特に創業時の苦労、想い、志を聞いてあげ、今に至るその歴史をよく聞いてあげましょう。その中に散りばめて聞いてほしいのが、後継者(今回の場合は専務)と同じ年齢の時に、何を考え、どう行動していたか?そして同じ年である後継者と比べ、どう違っていたか?を聞いてみましょう。そうすると、案外『自分が同じ年の時はもっとがむしゃらに、何も考えずに、やっていたが、今の後継者の方が案外と優秀かもしれない』という言葉が聞ければ、しめたものです。それでも、自分の方がはるかに優れていると主張するのなら、最後に聞いてみてください。
「自分の考え方を継続させることを優先させるのか、それとも会社を継続させることを優先させるのか?」と。そして、後継者の立場の辛さ、既に出来上がっている会社を継ぐことの難しさ、悩み、を伝えてあげて欲しいのです。それと、これまでの功労として、『役員退職金を取る』『株式を買い取ってもらう』ことを当然の権利として提案しましょう。

一方で、後継者に対しては、、、次回のメルマガでお話し致します。

(Writer:金子 一徳)