事業承継時の株式評価

株式の評価方法は何種類もありますが、原則的評価と言われているのが類似業種比準価額と純資産価額です。

また特例的評価と言われるのが配当還元価額であり、これは経営に対する支配権を持たない同族以外の株主に対して適用されるもので、原則的評価に比べてものすごく安い株価として計算されます。
(詳細の計算方法は、弊社『いちばん優しい事業承継の本:税務経理協会』をご覧ください。)

このため配当還元価額で評価できるように株式を贈与することができれば相続税対策として有効な手段となります。

ところが同族株主だと普通は原則的評価になってしまい、どうしても高株価に悩まされることが多いのです。

しかし、いくつかのケースでは同族株主にもかかわらず、正々堂々と特例的評価により低い株価で計算しても良い場合があるのです。そんなことってあるのか?と、この分野にお詳しい方なら不思議に思われるかもしれません。

でも実はあるのです。

それでは、次のように世代を超えて株式が相続された場合にどのように株価が評価されるのか?具体的な例を見てみましょう。

ある会社の社長が亡くなり、その保有する株式が遺言により、長男Aと孫Bに行くことになりました。内訳は以下の通りです。

  相続前 相続後 議決権
 社長 5,000株  
 長男A(後継者候補) 4,900株 9,800株 98%
 孫B(次男の子:社員) 100株 200株 2%
 合計 10,000株 10,000株 100%

<長男A>
相続後には議決権で98%を占める同族株主になりますので、原則的評価をしなければなりません。すなわち、高い株価になってしまいます。

<孫B>
BはAの甥にあたりますので、両者で100%を占める同族株主です(ここまでは同じ)。ただし、取得後の議決権割合が2%なので5%未満という基準からはずれます、さらに役員ではない、これに加えて中心的な同族株主であるかどうかという基準でさらに見ます。BはAの配偶者、直系血族、兄弟姉妹、1親等以内の姻族のいずれにも該当しないので、中心的な同族株主からはずれかつ、他に中心的な同族株主Aが存在しているので、結果として特例的評価により評価されます。(ややこしくてわかりにくいと思いますが、『いちばん優しい事業承継の本:税務経理協会』130pに図解がありますので、そちらをご覧ください)

というわけで、同族株主でありながら、それもお孫さんという非常に近親の者に相続させたとしても、極めて安い株価算定をしてもよい場合があるのです。ここらへんの計算は複雑怪奇であり、私たちのような専門家でも時々戸惑うこともあるくらいです。ですが、ぜひ自分達で悩まないで、私たちのような専門家に、株式の譲渡/贈与/相続等の設計を相談してみた方がよろしいと考えます。

株価は1物1価ではないところが、面白いところでもあり、悩ましいところでもあります。それも、とんでもなく株価が違う…。あまりにも株価の評価の判定を複雑化してしまい、素人にはほとんど判別不可能になってしまっているのが残念でなりません。もっと簡単にならないものかと常々思うのです。

(Writer:金子一徳)