中小企業に多い典型例として、「社長個人が所有する土地の上に、会社が建物を建てて事業を行っている」というケースがあります。一見すると合理的ですし、節税の観点からは、良い形に見えますが、事業承継の場面ではいくつもの問題が顕在化します。
まず、土地と建物の所有者が異なることで、承継後の経営の自由度が制限されます。先代社長が土地を個人で所有したまま亡くなると、その土地は相続財産となり、後継者以外の相続人が権利を主張する可能性があります。最悪の場合、会社が使っている土地であっても、売却や賃料増額を求められるリスクが生じます。社長兄弟が仲が悪ければもっと深刻な事態も考えられます。
次に、地代の問題です。地代を「取っていない」「相場より極端に低い」場合、税務上は「使用貸借」と判断され、法人税の面で不利になることがあります(これを「権利金の認定課税」とよぶ)。逆に、相場より高い地代を設定すると、会社の収益を圧迫し、後継者の経営を難しくします。
さらに、建物が会社所有であるため、土地を後継者に承継できても、土地と建物を一体で活用・処分しづらいという問題も生じます。これにより、将来的な事業再編や売却の選択肢が狭まります。
そこで、事業承継時に検討すべき解決策 こうした問題への対応策は一つではありませんが、代表的な選択肢をいくつか挙げましょう。
① 土地を会社に移す:土地を会社に売却または現物出資することで、土地・建物を法人に集約する方法です。経営の安定性は高まりますが、売却益課税や取得資金の問題、会社の財務バランスへの影響を慎重に検討する必要があります。特に含み益の多い土地を会社に移す場合は、かなり慎重にやらないと個人も法人も両方に多大なる負担がかかる場合があります。
② 土地を後継者に集中的に承継する:土地を生前贈与や相続で後継者に集約し、会社との間で適正な賃貸借契約を結ぶ方法です。他の相続人との遺産分割や代償金の準備が重要なポイントになります。
③ 土地を個人保有のまま、権利関係を明確化する 賃貸借契約を適正条件で締結し、地代設定の根拠を明確にしておくことで、将来のトラブルを防ぐ方法です。完全な解決ではありませんが、最低限のリスク管理として有効です。
不動産は、単なる事業用資産ではなく「事業を継続するためのインフラ」です。安定して経営していくための守りにもなりますし、不動産を複数所有しながら賃貸・売買をすることで、収益の源泉として活用することも可能です。
相続税評価額を圧縮できるとして、最近まで人気があった「不動産小口化商品」は、“実態のない節税”“租税回避的”と判断されるケースに対し、税務当局が評価否認や規制強化の姿勢を強めています。これを事業承継の対策として不動産小口化商品を活用して株価引き下げ対策を行う場合も「本当に事業上必要な投資なのか」「保有目的・期間・収益性が説明できるか」が重要になります。そして、このメルマガを書いている最中もおそらく、2025年末に発表される税制改正大綱で大きな規制が入ることは間違いないでしょう。
よって、皆さまにおかれましては、不動産を単に評価を下げることだけに目を向けるのではなく、承継後の経営の自由度と安定性を重視した不動産設計が、これからの事業承継には求められています。
最後にチェックリストをあげておきます。
【所有関係・権利関係のチェック】
□ 事業に使っている土地が、会社名義ではなく社長個人名義である
□ 社長個人の土地の上に、会社名義の建物が建っている
□ 土地の名義人が複数人(共有)になっている、または将来共有になる予定がある
□ 不動産の登記内容を長年確認していない
□ 抵当権・根抵当権が設定されたままになっている
【賃貸借・地代のチェック】
□ 土地を会社に「無償」で使わせている(使用貸借になっている)
□ 地代を取っているが、金額の根拠を説明できない
□ 相場と比べて著しく低い、または高い地代を設定している
□ 賃貸借契約書を作成していない、または古い内容のままである
□ 更新条件・解約条件が不明確である
【相続・承継時のリスクチェック】
□ 土地を相続する予定の人物と、会社の後継者が一致していない
□ 他の相続人が、事業用不動産の価値を強く意識している
□ 遺言書で事業用不動産の扱いが明確になっていない
□ 土地を分けるための代償金・調整資金の準備がない
□ 相続発生後の地代や使用条件について話し合われていない
【財務・税務面のチェック】
□ 不動産の評価額を把握していない(固定資産税評価・相続税評価)
□ 不動産が自社株評価にどのような影響を与えているか分からない
□ 不動産を活用した節税策を「効果だけ」で判断している
□ 不動産小口化商品を、事業との関係性を整理しないまま保有している
□ 税務調査で不動産の取扱いを説明できる自信がない
【将来の経営・出口戦略のチェック】
□ 事業承継後も、先代経営者または相続人が土地を握り続ける予定である
□ 将来、会社を売却・統合する可能性を検討していない
□ 不動産を含めた会社の「出口(M&A・清算)」を想定していない
□ 不動産があることで、後継者の意思決定が縛られる可能性がある
以上のチェック項目に3つ以上該当する場合は、弊社までご相談ください。
Writer:金子 一徳
