「会社をM&Aで売却すると、2027年から税金が大きく増えるらしい」
最近、そんな話を耳にする機会が増えてきました。
確かに、2026年度税制改正では、いわゆる「ミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)」が強化されることが決定しました。
事業承継を考えている皆さんの中には、「うちは社内承継だし、M&Aしないから関係ないよ。」とたかをくくってはいけません。なぜなら、この改正はM&Aの問題だけに留まらないからです!
確かに、2026年度税制改正では、いわゆる「ミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)」が強化されることが決定しました。
事業承継を考えている皆さんの中には、「うちは社内承継だし、M&Aしないから関係ないよ。」とたかをくくってはいけません。なぜなら、この改正はM&Aの問題だけに留まらないからです!
むしろ事業承継の現場では、「後継者が持株会社を設立し、その持株会社に現経営者が保有する自社株式を譲渡する」という、いわゆる持株会社方式に影響が出てくるからです。
そもそも「ミニマムタックス」とは?
ミニマムタックスは、非常に大きな所得がある人について、通常の所得税だけでは負担が低くなりすぎる場合に、一定額まで所得税負担を引き上げる仕組みです。2025年分からすでに導入されており、現行制度では、【特別控除額:3億3,000万円、税率:22.5%】という計算をベースに、通常の所得税額を上回る場合、その差額を追加で納税します。これが2027年分以後、【特別控除額:1億6,500万円、税率:30%】となります。
つまり、控除額は半分になり、税率は22.5%から30%へ引き上げられるわけです。ここで重要なのは、「株式譲渡益に30%の税金がかかる」という意味ではないことです。通常、非上場株式の譲渡益には所得税・住民税等が課税されますが、ミニマムタックスは、その通常の税額が一定水準に達していない場合に「追加で所得税を納める」という仕組みだということがポイントです。
M&Aではどうなる?
オーナー経営者がM&Aによって自社株式を売却すると、売却価格から取得費や譲渡費用などを差し引いた「株式譲渡益」が発生します。
この金額が非常に大きくなると、ミニマムタックスの影響を受ける可能性があります。
株式譲渡益以外に大きな所得がない単純なケースでは、2027年以降、約3.4億円を超える株式譲渡益が一つの目安となります。ただし、ここで重要なのは、ミニマムタックスの対象となる「基準所得金額」は、単純に株式譲渡益だけを見るわけではなく、給与所得や事業所得、不動産の譲渡所得、一般株式等の譲渡所得など、一定の所得を合算して判定するということです。
そのため、「自社株の譲渡益は3億円だから大丈夫」と単純に判断するのではなく、その年の他の所得も含めて判定することが重要です。
したがって、自社株の売却によって大きな譲渡益が発生する場合には、M&Aの「売却価格」だけでなく、最終的にオーナーの手元にいくら残るのかという税引後キャッシュフローまで確認することが重要になります。
実は「持株会社方式」にも注意!
事業承継の現場では、M&Aとは別に、こんなスキームがあります。
①後継者が持株会社を設立⇒②持株会社が金融機関等から資金調達⇒③持株会社が現経営者から自社株式を買い取る⇒④現経営者は株式譲渡代金を受け取る⇒⑤後継者が持株会社を通じて事業会社を支配する
これは、後継者への株式承継を進める際に検討される代表的な方法の一つであり、弊社でもよく提案実行します。ところが、この場合も「現経営者から持株会社への株式譲渡」が行われる以上、現経営者個人には株式譲渡所得が発生します。つまり、「M&Aではないから、ミニマムタックスとは関係ない」とはならないのです。
特に、自社株の評価額が数億円、あるいはそれ以上となっている会社では、持株会社への株式譲渡によって現経営者に大きな譲渡所得が発生する可能性があります。したがって、これから持株会社方式による事業承継を検討する場合には、「誰が株式を持つのか」だけではなく、「いつ、誰に、いくらで株式を移すのか」まで含めて税負担を確認する必要があります。
計算例
取得価額1,000万円(=資本金1000万円)の自社株を経営者が100%保有していたとして、これを6億円で持株会社に売却した場合、株式譲渡益は約5.9億円。役員報酬2,000万円と仮定すると、2026年の売却ではミニマムタックスによる追加負担は発生しない一方、2027年に同じ6億円で売却すると、約3,800万円の追加納税が生じる計算になります。
一方、2027年以降に1.5億円ずつ4年間に分けて譲渡すると、ミニマムタックスの計算額は通常の所得税額を下回るため(計算は省略)追加のミニマムタックスは発生しません。
| 項目 | ① 2026年に6億円一括 | ② 2027年に6億円一括 | ③ 2027~2030年に1.5億円ずつ |
|---|---|---|---|
| 売却総額 | 6億円 | 6億円 | 6億円 |
| 売却期間 | 1年 | 1年 | 4年 |
| 1回の取得価額 | 1,000万円 | 1,000万円 | 250万円 |
| 株式譲渡益 | 5億9,000万円 | 5億9,000万円 | 1億4,750万円/年 |
| 基準所得金額 | 6億805万円 | 6億805万円 | 1億6,555万円/年 |
| ミニマムタックス計算額 | 約6,256万円 | 約1億3,292万円 | 約16.5万円/年 |
| 通常の所得税等※ | 約9,478万円 | 約9,478万円 | 約2,702万円/年×4回=約1億808万円 |
| 追加ミニマムタックス | 0円 | 約3,813万円 | 0円 |
| 合計 所得税 | 約9,478万円 | 約1億3,291万円 | 約1億808万円 |
※概算額のため詳細の数値とは異なる。
※所得税のみ計算しているため住民税等は考慮しない。
「M&Aの税制」ではなく「自社株承継の税制」として考える
今回のミニマムタックス強化は、ニュースなどでは「富裕層への課税強化」や「大型M&Aへの影響」として取り上げられることが多いテーマです。しかし、私たち事業承継の専門家にとっては、それだけではありません。「現経営者が保有する自社株を、後継者側の持株会社へ移す」という、比較的身近な事業承継対策にも関係してくる可能性があります。
これから事業承継を進める会社では、株価 × 株式移転方法 × 資金調達 × 税負担 × 実行時期、を一体として考えることが、ますます重要になってきます。「後継者は決まった。次は持株会社を作ればいい」ではなく、「持株会社を作る前に、自社株をどう移すのが最も適切なのかを確認する」。2027年を見据えた事業承継では、そんな一手早い準備が求められています。
Writer:金子 一徳
