遺産分割 3つの方法

そもそも遺言を具体的に書いておいてもらえれば、遺産分割協議をしなくてもいいわけですが、
遺言があったとしても、例えば、「財産の2分の1を長男に2分の1を次男に相続する。」
という包括的な遺言や、遺言がそもそもない場合は、誰がどの財産をどれだけ取得するかということを話し合わなければなりません。

これが遺産分割協議といわれるものです。
また、あまり知られていませんが、たとえ遺言書があったとしても、遺産分割協議により相続人全員の同意があれば遺言書と異なる遺産分割ができます。
ですから、発言力が弱くて、遺言書でたくさん遺産をもらった相続人に対して、他の相続人が結託して、

「お前だけ多くもらうのは納得いかない。みんなで遺産分割協議をするけど文句ないよな。」

とせまって、強引に遺産分割協議をさせられるということも、実際には起きるわけです。

さて、この「遺産分割協議」ですが、大小の程度こそあれ、モメることが多いのもまた事実です。
何とか遺族だけで話し合いがまとまればいいのですが、まとまらなければ、家庭裁判所での調停手続を、
それでもまとまらない場合は、審判手続によって遺産を分割することになります。

審判手続では、法定相続分割合にしたがって機械的に分割されることになりますので、
話し合いによる遺産分割協議に比べると余計なコストがかかることになります。
(平均的に解決までに遺産の10%~20%の費用および約1年~3年の期間がかかるといわれています)

しかも、審判まできてしまうと、その後の親族の関係は断絶することが多いのも事実です。
(そりゃそうですよね、財産の配分を巡って血みどろの争いをするわけですから(笑))

こうして、遺産の分割が晴れて完了した場合には、相続開始の時に遡って相続人が相続財産を取得したものとされます。
(遺産は複数の相続人がいる場合は、便宜的にいったん相続人全員の共有財産とされるため)

遺産分割には、次の3つの方法があります。

(1)現物分割

配偶者が自宅、長男が預貯金、次男が株式を相続するというように、個々の財産を各相続人が分割する方法です。

この相続方法で、あまりお勧めできないのは、自宅に住み続ける配偶者に自宅を半分、住んでいない長男にも自宅を半分、
だとか、後継者の次男に株式を1/2、名ばかり役員の長男に1/2という分割です。
自宅のような不動産は、長男が急に現金をほしいと言いだした時の対処法が現実的には難しく、もめる原因になります。
同じように、経営にタッチしていない長男に1/2を持たせたとすると、兄弟が不仲になった時に、
会社経営が宙に浮いてしまうというリスクを孕むのです。
ですから、現金はいいのですが、不動産や株式は、種類(物件・銘柄)ごとに分割するのがセオリーです。
この場合、配偶者、長男、次男は時価換算すると、得する人と損する人が出ますが、そこは割り切って考えるとか、
あるいは差額分を現金等で穴埋めするという工夫をしたらよろしいと思います。

(2)換価分割

遺産の全部もしくは一部を売却してその代金を各相続人が分割する方法です。

そもそも遺産を各相続人の相続分どおりにきっちり分けることは難しいわけですが、
それぞれが法定相続分きっかりに遺産を分割したい場合にこの方法をとります。
ただし、そもそも換金できるような不動産があればまだしも、未公開株式などでは換金することはできません。
また不動産のような遺産を処分すれば、処分費用や譲渡取得税などが発生しますので、余計なコストがかかることを付け加えておきます。

(3)代償分割

一族の経営する会社に対して、亡くなった方が個人の財産である不動産も現金もほとんど突っ込んでしまっていて、
相続財産の大半が未公開株式になっているということがよくあります。
この場合、上記の通り、経営者がその株式を相続するのが、もっとも合理的でかつ経営が安定するわけですが、
これだと他の遺族の手元に遺産が何も入りません。
そこで、財産をもらい過ぎた分を他の相続人に現金で支払いをして分割するのです。

こうしてみると、遺族はそれぞれが勝手に自分の取り分を主張するよりも、
大所高所にたって、一族としてどう遺産を分割して相続するのが一族全体にとって得か、という視点が重要だということがわかります。
争いはコストも時間もかかる上に人間関係を決定的に破壊するということを覚えておいてください。

 

(Writer:金子一徳)