『特別寄与者の寄与分』と『特別受益』

法定相続が本当の意味で平等かと聞かれれば、

「そんなことは絶対にない!」

と断言できますが、法律はそこを完全に親族関係でスパッと切るわけです。
まぁ、そうやって割り切らないと法律とは言えないわけですから、しょうがありませんが。

でも、その法律でも「これくらいは認めてもイイよ」と言ってくれているのが、『特別寄与者の寄与分』と『特別受益』です。

 

『特別寄与者の寄与分』

被相続人の財産の維持または増加につき特別の寄与をした者は、寄与のない相続人よりも寄与分だけ多くの財産を受け取ることができるという規定です。
ところが、問題なのは、寄与分をどれくらい認めるかというのを、相続人たちの協議によって定めるのが原則になっていることなんです。
もちろん、協議がまとまらなければ、家庭裁判所に対して寄与分を定める審判を申し立て、裁判所に決定してもらうわけですが、ここに一つ問題があります。
遺産分割の審判が係属中または遺産分割の審判の申立てと同時の場合に限ってしかできないなど制約があるということです。

なお、相続人でない者(例えば長男の嫁、内縁の妻など)は、たとえ被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたという事実があったとしても、寄与分は認められません。
(なんとひどいことか!これは遺言によって財産を遺すしかありません)

下記のような行為が寄与分として認められる場合があります。

①被相続人の事業に関する労務の提供

子が給料をもらわず、被相続人の父の事業に従事したというような場合。

②被相続人の事業に関する財産の給付など

被相続人の借金を返済したり、相続人が被相続人に自己所有の不動産を贈与したり、自己所有の不動産を無償で使用させた場合など。

③被相続人を扶養

被相続人を扶養しその生活費を出してあげ、財産の維持に寄与した場合。

④被相続人の療養看護

娘が結婚もせずに被相続人の父の看護にあたったというような場合。
(この看護によって被相続人が付添人の費用の支出を免れ、財産上の増加した事実が必要)

⑤被相続人の財産管理

子が被相続人である父の土地建物を、父に代わって管理費用、修繕費等を支出し、このため被相続人である父が管理費用の支出を免れるなどして、その財産の維持に寄与した場合。

以上のように<特別の寄与>とは、たとえ、被相続人に日常から精神的に尽くし、生活を支えていた場合であっても、それが財産の維持や増加をもたらしていなければ、<寄与分>は認められないことになります。

 

『特別受益』

共同相続人の中に被相続人から相続分の前渡しと見られる生前贈与や遺贈を受けた場合に、これを考慮せずに相続分を計算したのでは、不公平になるということで、相続分を算定する際に、特別受益分を遺産に持ち戻すことにより、相続人の公平を図ろうとするものです。

この場合の「持ち戻し」という意味は、生前贈与や遺贈を受けた物件などについて、それらの評価額を算出し、その額を相続開始の時の財産の価額に加える、ということであり、何も特別受益を受けた物件などを名義などを含めて全部返還する、ということではありません。
あくまでも遺産の計算上の問題のことです。
なお、持ち戻しの対象となるのは、被相続人から相続人に対する生前贈与か遺贈ですから、相続人でない者に対する生前贈与や遺贈は対象外ということになります。

「特別受益」の範囲は以下のようなものです。

①婚姻、養子縁組のための贈与

持参金、嫁入道具などの持参財産や支度金のことです。結納金や挙式費用などは含まないとされています。

②生計の資本としての贈与

独立して事業を始める時の開業資金、家屋を新築してもらう、家の建築費用を出してもらう、不動産を譲ってもらう、

③学資

高等教育を受けるために被相続人が支出した費用や贈与された金額は、原則として特別受益に該当する、と考えられていますが、共同相続人全員が同程度の教育を受けている場合には、特別受益の問題は生じません。
ただし、そのうちの一人だけ大学教育を受けたり、あるいは全員大学教育ではあるが、一人だけ私立の医学部で突出して教育費が高かった、という場合は「特別受益」になることがあります。

なお、生命保険金は、遺産ではなく保険金受取人の固有財産とされていますが、不公平とみられるほどに高額の場合は、これを特別受益とみなされる場合があるので注意が必要です。

ところで、せっかく一人娘のために嫁入り道具一式を買ってあげたのに、それが特別受益になってしまったのでは、せっかくの親の親切心と愛情が何となく報われない気がしませんか?

そんな時のために、『特別受益の持戻しの免除』という制度があります。

どういうことかというと、被相続人が遺言などで、このような特別受益の持ち戻しをしないという意思表示をしていれば、その意思表示に従うことになるのです。

つまり、特別受益が遺贈である場合にはその遺贈を除いた財産だけを対象に、また、特別受益が上記のように生前贈与である場合にはこれを考慮せずに死亡時の財産だけを対象に、法定相続分に従って遺産を分配することができるということです。

意思表示の方式は、特別の方式を必要とせず、遺言でも生前行為でもよいし、明示でも黙示でもよいとされています。
したがって、特別受益であっても事情により黙示の持戻しの免除があったものと認められる場合もありますが、きちんと遺言に書いておく方がトラブルを避けられるし、みんなが納得します。

 

(Writer:金子一徳)