民法大改正で事業承継はどうなるか?(その1)

民法の中でも相続法は大きく改正はしていませんでした。

今回大改正した内容は、

①配偶者の居住権の保護
②配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現
③寄与分の見直し
④遺留分の見直し
⑤遺言の見直し

です。今回はボリュームがあるので2回に分けて連載いたします。

 

①配偶者の居住権の保護

配偶者居住権があることで、所有権がなくても配偶者は自宅に住み続けることが出来るような権利を認めることとなりました。

親族承継で子息が後継者の場合に、株式を先代の配偶者が持つということを避けなければなりません。なぜなら2次相続により経営に関係のない他の兄弟へ相続されてしまうリスクがあったからです。

今回の改正により、先代社長の相続の際に、後継者には自社株式を、兄弟には不動産の所有権を、配偶者には居住権をというように、1次相続で抜本的な対策を組みやすくなったといえるでしょう。

ただし、配偶者居住権は、対抗要件を登記のみとしており、建物の占有だけでは対抗要件として認められていませんので、登記が必要が必要なのを忘れてはいけません。また居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の増改築を行うことはできません。

なお配偶者居住権は譲渡することが出来ず、配偶者の死亡と同時に消滅します。そして、配偶者居住権は建物の財産価額に対して、少額に設定されるべきとされていますが、詳細は、法務省のHPから「長期居住権の簡易な評価方法について」を参考にしてください。

 

②配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現

結婚20年以上の夫婦なら、配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居は遺産分割の対象から除外します。

これは、現行民法903条3項に規定されている「持戻しの免除の意思表示」を推定する規定を設けることにより、婚姻期間が20年以上の夫婦の場合、被相続人が住宅(居住用の土地や建物)を生前に配偶者に贈与した場合には、その住宅は遺産分割の対象にはしないという規定を創設するということです。

そうすることによって、税制の恩典だけでなく、民法上も配偶者の居住という権利を生前に確定させてあげるようにした、ということになります。

よって配偶者は住居を離れる必要がなく、預貯金などの配分が増え、老後生活の安定につなげられるというメリットがあります。

 

③寄与分の見直し

特別寄与者に金銭的な権利を認めるというものです。

相続人ではない親族が無償の療養看護や労務の提供をした場合に,相続人に金銭の支払を請求できるようにするというものです。これまで、この権利は法定相続人以外には認められませんでした。それを認めようという制度です。(新民法1050条)

例えば、後継者である長男のお嫁さんが現社長である義理の父親を献身的に介護して、経営を支えたとしても、これまでであれば、お嫁さんを養子にするか、あるいは遺言により遺贈するなどの方法を取らなければ、お嫁さんは言ってみれば、「介護し損・面倒見るだけ損」の状況にありました。

ただし、いったいいくらの価値がそこにあり、金銭の請求が出来るのか、という問題はこれまでの寄与分という法定相続人に認めれた従来の権利と何ら変わることはないというのが多くの有識者の見解です。ただし、事業承継士の皆様は、こうした制度は、後継者の立場をより強固にするものであると認識し、うまく活用するように立ち振る舞いましょう。

 

(Writer:金子 一徳)