民法大改正で事業承継はどうなるか?(その2)

④遺留分権利者が遺留分の侵害を受けた時に行う請求が金銭による支払請求となります(新民法1046条1項)

さて、この制度、何が今までと違うかといえば、これまでは、例えば不動産の贈与の一部が遺留分を侵害している場合,遺留分権利者が遺留分減殺請求をすると,遺留分権利者と遺留分減殺請求を受けた者が不動産を共有するのが原則でした。同じように自社株式でも共有財産(準共有財産という)になることが原則でした。
これを、金銭で解決することを原則とするようにしよう、というのが改正の主旨です。よって、自社株式しかさしたる財産が見当たらない場合でも、遺言により、あえて遺留分侵害を覚悟して後継者に相続させ、同時に生命保険により、代償交付金により支払いを行い、自社株式を確保するというスキームが成り立つこととなります。

そして、もう一つの改正は、
死亡前にされた相続人への贈与(これを特別受益とよぶ)のうち遺留分額の算定の対象となるものを死亡前10年間にされたものに限定します
(新民法1044条3項)

現行法では,相続人への贈与については,何十年前にされたものであっても、期限がなく遡って贈与された財産を遺留分額の算定の対象とされていました。これは自社株式においても同様です。
よくあるのが、自社株式を兄弟のうち一方の後継者だけに毎年、110万円の範囲内で暦年贈与を繰り返し、株式の移転が済んでやれやれと思っていた矢先、相続が発生した時に、ここぞとばかりに、後継者になれなかった兄弟から遺留分減殺請求を受け、結果、自社株式の贈与した分を特別受益として財産に持ち戻して計算した結果、後継者が自社株式を渡さざるを得ない事態になってしまった、ということが起きます。
これを今回の改正により、死亡前10年間に限定しようという制度になりますので、早目に対策を開始すれば、それなりに有効になるという改正になりました。(それなりにというのは10年間は遡るためです)

⑤現行法では,自筆証書遺言のすべてを自書する必要がありますが、そもそもすべてを自書するのは労力が相当かかるうえ、要件が整わないことが多く、例えば日付が曖昧だったり、名前が判読できないといった理由により無効となってしまう例が多発していました。
また、ビデオ、録音、ワープロ等のデジタル遺言はすべて認められていないため、面倒で煩わしいといった側面もありました。一方で自筆証書遺言は徐々に増えてきており、より使いやすいものにする必要があるということで、相続財産の目録については自書が不要となりました。
新民法968条2項に「(前文省略)…目録を添付する場合には,その目録については,自書することを要しない。この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては,その両面)に署名し,印を押さなければならない。」
となりましたので、この目録部分だけはワープロにより作成することが出来るようになりました。
したがいまして、この部分については、事業承継士の中でも司法書士、弁護士は、お手伝いできることが増え、結果として仕事に結びつくケースが増えるものと予想しています。遺言を書くという行為は、事業承継を進める有効なツールになりますので、ぜひツールとして活用して頂けるといいと思います。
それと、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(法務省)という民法とは別の法律で、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度もできるのです。
これにより、自筆証書遺言のもう一つの弱点であった、破棄、隠蔽、改竄、などを防止することも可能となります。

(Writer:金子 一徳)