2018年の大改正により使い勝手がよくなったと言われております経営承継円滑化法ですが、何が使いやすくなって、どこを注意しなければならないかを実際に使ってみた立場として解説致します。
とあるA社は先代社長であるBがA社普通株式を75%を保有しており、残りをBの配偶者であるCが20%、Bの兄であるDが5%を保有しておりました。後継者(現在の社長)は、Bの長男であるEです。
さて、2018年から、従来からの一般措置及び新たに創設された特例措置ともに、先代社長以外の者からの贈与についても、経営承継円滑化法による事業承継税制の対象になりました。だからと言って、すぐに贈与手続きを行ってはいけません。
この時の順番が大切になります。実はBの贈与を先に行った後にC、Dの贈与を行わないとすべての株式が対象にならないのです。このケースの場合は、BとCは後継者のためなら無償で株式を渡すという贈与行為を進んで行いますが、Dはかなり微妙で、交渉が必要になる場合も多いのです。
したがって、先にまずDと交渉を行って、その結果贈与を承諾してもらいますと、「気が変わらないうちに早く贈与契約書を取り交わして、贈与してもらおう」となりますので、Dの贈与が先行しがちになります。ところが、Dを先行させてしまいますと、そのDの持株は特別税制の対象にならないということに注意をしなければなりません。
したがって「Dの気持ちが変わらないうちに早く!」という焦る気持ちはわかりますが、慌てずにBの贈与をまず行ってから、Dの贈与という順番で行うようにしましょう。(特に株式を発行している場合は注意しましょう)
また、このEに対する贈与の順番は、厳密に言いますと、下記であればすべて経営承継円滑化法による事業承継税制の対象株式にすることが可能なのです。
①B→C→D
②B→D→C
③B→CとDが同時
④BとCとDが同時
なお、事業承継税制の適用を受けるためには、従来からの一般措置及び新たに創設された特例措置ともに、都道府県知事に対して経営承継円滑化法に定める所定の要件を満たしていることの認定申請を行います。
ここで認定申請書を作成する上で面倒な点があります。それは、Eに対してB~Dの株式が贈与される度に、その時点における認定申請書を作成する必要があるということです。つまり、最初の贈与があり、その後、次の贈与が行われ、さらに次の贈与が行われた、というように順次認定申請書を作成しなければならないのです。
こうした面倒な認定申請書作りは、企業側の乏しい情報や知識では到底対応することは難しいので、弊社のような専門のコンサルティング会社または事業承継士へご依頼を頂けるとスムーズにいくでしょう。
(Writer:金子 一徳)