令和4年度税制改正大綱を受けて年末にふと思うこと~相続税と贈与税の一体課税を考える~

今年もいよいよ税制改正大綱発表の時期が来ました。

そこで、今回この大綱の中で掲げられた考え方の中で、中小企業の経営および事業承継ならびに経営者個人の相続に関する重要なものだけ抜粋してみましょう。

<決定事項>
① 成長と分配の好循環の実現
給与の支給および教育訓練費を増加させた企業に対し、給与支給額の増加額の最大30%(中小企業は40%)を控除するというもの。中小企業の交際費課税の特例も2年間延長。

② 事業承継の円滑な促進
経営承継円滑化法の中の特例税制に2018年度の改正で特例措置が設置されたが、この特例承継計画の提出期限を1年間延長して2024年3月31日までとする(ただし、適用期限については2027年12月31日として変更せず)。

<検討事項>
③ 相続税・贈与税のあり方
高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しているとして、相続税と贈与税の一体見直しを示唆。合わせて相続時精算課税制度と暦年課税制度の在り方も見直しの方向。

 

こうして見てますと、③はおそらく現状の制度である、亡くなる直前の3年間贈与税を相続税と精算するという期間が3年間から延長する方向に進むことはほぼ確実になったと言えましょう(イギリス:7年間、ドイツ:10年間、フランス:15年間など)。一方で、②のように自社株式については発行済株式の100%を対象に贈与もしくは相続で一度に渡せば贈与税もしくは相続税を全額納税猶予するという特例措置を使えるようになるための特例承継計画の提出期限を1年間延長したことからもわかる通り、会社存続のための贈与税もしくは相続税の恩典は引き続き確保する、というメッセージを捉えることができます。

 そこで、中小企業の皆様、あるいはそれを支援する事業承継士をはじめとした専門家の方々は、経営承継円滑化法について、もう一度メリット/デメリットを考慮した上で、事業承継対策を経営承継円滑化法により、打つのか/打たないのかを早急に検討していく必要があると考えます。合わせて、富裕層である経営者は、子や孫に有効に贈与を行える期間は残り数年しかないと自覚し、やれるのであれば、2021年の12月末までに、まずは贈与を1度行うことをお勧めします。そして、2022年の12月末までにもう1回贈与を行うことで駆け込み贈与の恩典が受けらえるでしょう。もちろん、その贈与財産に自社株式を入れることはお勧めしません、あくまでそれ以外の財産です。

 中小企業の経営者はコロナ禍で経営に打撃を受け、中には廃業を決意した方もたくさんいらっしゃると思います。一方で生き残った経営者は、今度は2年間という時間経過を取り戻すために、事業承継の時期、後継者、渡し方をスピード感を持って行っていくことが求められるのです。上記でお話した制度はいずれも期限があります。「事業承継」というロングスパンで本来考えるべき課題でしたが、今後は、短期間の中で素早い決断と実行が求めらえる時期に来たと言えるでしょう。

(Writer:金子 一徳)