親族内に会社を継ぐ人がいない場合、次に考えるのは会社内にいる取締役や従業員という会社は多いのではないでしょうか?しかしながら、親族外を後継者に迎える時に悩んでしまうことがいくつかあります。
そのうちの大きな問題の一つは、損害賠償の対象になってしまい、責任を負いきれないということです。後継者本人はやる気満々でも、反対の急先鋒に立つのが、後継者の奥様だったりします。これは、長年サラリーマンという責任のない立場で会社に帰属してきた立場から、いきなり全責任を負う代表取締役という地位を承継するわけですから、当然といえば当然かもしれません。
その場合、会社説明会を弊社が請け負い、後継者の奥様に数値シミュレーションを使ったりして丁寧に説明するわけですが、そうするとだいたいの場合、納得して頂けるものです。それでも、こと損害賠償責任の話に及ぶと、腰が引けてしまうので、「代表取締役の責任を限定させる方法が実はいくつかあります。」という話をします…。
それが次の方法です。
①総株主の同意
②株主総会の特別決議
③定款の定めに基づく取締役会の決定
このうち①は総株主の同意があればという厳しい条件付ですが、責任の全部免除ができます。②は責任の一部免除となりますが、監査役の同意を得た上で株主総会の特別決議で議決されることにより、代表取締役の場合は最大でも役員報酬の6年分の限定責任に留めることができます。③は取締役2名以上および監査役がいる会社において取締役の決議によって「取締役の責任の免除をすることができる旨」の定款の定めをすることにより(要登記)、役員報酬の6年分の限定責任に留めることができます。ただし、取締役会の決議によって取締役の責任を免除する旨の決議を行ったときは、取締役は遅滞なく株主に通知しなければならず、その場合、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主が異議を述べたときには、責任の免除は認められなくなります。ただし、利益相反取引のうち、自己のためにした取引を行った取締役の任務懈怠責任については、②~③のいずれも適用がありません。
これは、自己取引による利益相反行為の責任を厳格化するために設けられている特則となります。
このような説明をしていきますと、結局のところ株主が”免除する”と言わない限りは、責任を取らなければならず、したがって株式もなるべく2/3以上を譲渡するよう経営者にも後継者にもお勧めするわけです。しかし中には、「どうしても株式を買いたくはない。でも責任も負いたくない。」という虫が良すぎることを後継者もいらっしゃいます。そういう場合には役員賠償責任保険(通称D&O保険)に入ることをお勧めしています。なぜなら、この保険は、株主代表訴訟と第三者訴訟に対し、勝訴・敗訴に関わらず、また高額な賠償金や弁護士費用や争訟費用が賄えるからです。
しかし、そもそもリスクばかり訴える後継者って、果たして代表取締役になる器なのかどうか…ちょっと疑いたくなりますよね。しかし、人材が限られている中から選ばなければならない中小企業の場合は、後継者になるお膳立てをしてあげて、奥様にも納得して頂き、代表取締役に三顧の礼を持って迎えなければならないかもしれません。
まさに時代が変わってきた、と言えるでしょう。
(Writer:金子 一徳)