「2018年民法改正により遺言が重大な意味を持つようになった具体的なケース 事例編(つづき)」

前回は、特別受益を主張された場合にどのように対応したらいいのか?という投げかけで終わっていましたね。(尻切れトンボのようになってしまい申し訳ございません)

もう一度ケースを振り返りましょう。
甲社の創業者Aは、自分が2代目という立場柄、相続で苦労したことを踏まえ、後継者の長男Bに20年前から自社株式の持ち分を暦年贈与の範囲で少しづつ贈与し、ようやくすべての株式を長男Bに渡し終えた時に、急逝してしまったのでした。

残されたのは、後継者である長男Bとサラリーマンの次男Cの2人、この二人は仲が悪い。だから二人で遺産分割協議を開いたが、残された財産は現金2000万円のみだったため、怒った次男Cは特別受益の主張や遺留分侵害額請求権を行使する可能性が…、
という話でした。ちなみに、20年前の自社株式の相続税評価額は5000万円でしたが、創業者Aが亡くなった時は2億円になっていたんですよね。

さて、こうしたことを引き起こさないために何が必要かというとポイントは二つあります。
①きちんとした遺言書を書く
この「きちんとした」というのが結構難しいのです。まず、創業社Aは長男Bに対して次男Cよりたくさん財産を遺そうという意図があったわけではありません。しかし、次男Cは不公平感を感じます。このギャップを埋めるためには、言葉しかありません。
自社株式は換金性がなく、経営をするために必要なものであって、価格も対税務署用に計算された価格でしかなく、換金することはできないものなんだということを、長男Bと次男Cに伝えるために、付言という形で遺言書にするのです。そして、親から子ども達へ想いも一緒に伝えるとさらに良いでしょう。

次に「贈与していた自社株式については特別受益の持ち戻しはしない」旨を書いておくのです。
これをしないと、前回メルマガで書いた通り、過去にいつまでも遡って特別受益を持ち戻ししろ、という主張が次男Cによって通ってしまいます。それをさせないように、遺言書で明記しておくという方法です。

そして、遺言書を書くことの最大のメリットは、まず財産の分配が決まった上で、多い/少ない、という主張を相続人同士がすることになりますので、長男Bにとっては、結果的に遺産分割協議になるよりも有利に運ぶことが出来るということです。

②保険に予め加入しておき、いざという時に備える
上記①で遺言は書いたものの、相変わらず過去10年分の遺留分の主張はされてしまうでしょう。これを防ぐためには、次男Cに別の財産を渡しておいて、遺留分放棄をしてもらうという方法がありますが、これはなかなか現実的ではないでしょう。なぜなら、遺留分放棄を裁判所に認めてもらうためには、代償財産が次男Cに渡されていなければならず、今回のケースのようにわずかの現金しか手元にない場合は、裁判所が認めないことが考えられるからです。そこで、生命保険に加入して、いざという時に、保険を代償財産にするという方法があります。この時、保険の受取人を長男Aにしておくことがポイントです。民法上は保険金は受取人の固有の財産になりますので、受取人を次男Cにしてしまうと、「保険金は俺のもの、現金も俺のもの」というどこかで聞いたフレーズの最悪の事態を招いてしまう場合もありますので、あくまで次男Cから遺留分侵害額請求を起こされた場合の代償として、長男Bに保険が入るようにしておくのです。

以上の通りにしておけば、問題は全く起きないか?いやそれでも起きる時は起きるでしょう(笑)。
これを起こさないようにするためには、普段から長男Bと次男Cも交えて家族会議を行っておくことをお勧めします。最初はぎこちない家族会議も、集まって議題について喧々諤々して、結論が出なくてもいいのです。顔を合わせて1年に1回集まってメシを食べるだけでもコミュニケーションを取るということが大事なのです。

(Writer:金子一徳)