経営承継円滑化法について知っておくべきポイント 前編

【2018年に大改正した経営承継円滑化法をおさらい】
経営承継円滑化法は、
「自社株式が高額で移転すると税金が多額に発生する」
「自社株式以外にあまり財産がないので兄弟間でもめるかも…」
「代表取締役が高齢なため、いっきに株式を移転する必要がある」

というような悩みがある会社に対して、

①贈与税/相続税の課税の繰り延べを行うことで急な多額の出費を避ける
②自社株式を遺留分の対象から外すことで兄弟間の争いを避ける
ことによって中小企業が次世代まで円滑に事業を継続できるような法律として2008年に施行されました。
ですが、当時は使い勝手があまりよくなく、ほとんど使われていませんでした。

しかし、2018年に特別措置が追加されて大改正されたことで、使わない理由がないくらいの法律として生まれ変わりましたので、皆さんにご紹介いたします。

①贈与税/相続税の課税の繰り延べを行うことで急な多額の出費を避ける 
発行済株式総数の2/3にあたる株式のうち贈与であれば100%、相続であれば80%分を繰り延べることが出来るというものです。
それが、2018年の大改正により、特例措置を使えば、それぞれ2/3→100%、相続の時80%→100%となりました。

極論すると、代表取締役が株式を100%持っている場合、後継者へ100%一度に贈与しても1円の税金も払わなくてもよくなったのです。

 

②自社株式を遺留分の対象から外すことで兄弟間の争いを避ける
代表取締役の個人財産の中で自社株式が突出していて、それを後継者だけに渡してしまうと、遺留分の問題が出てきて、もめごとになるケースが想定されていました。
ですが、合意書を作って、民法特例として認定してもらえば、兄弟から遺留分減殺請求を受けなくてもよくなったのです。

 

では、以下で経営承継円滑化法を使う時のポイントをお話しましょう。

【経営承継円滑化法を使う時のポイント】

●認定さえしてもらえばあとで利用しなくでもお咎めなし。2027年末までに自社株式の贈与を予定しているなら特例措置を使おう!

2018年度の大改正により、一般措置に特例措置が加わることとなりました。
特例措置は一般措置と比較して、使う側のメリットが増えることはあっても、減ることはありません。
都道府県の窓口に特例承継計画書を提出して認定してもらうというひと手間が増えますが、認定してもらっておいて本申請をしない、という選択もペナルティーなしで選択できますので、経営承継円滑化法を使うなら特例措置を使わない手はないと覚えておきましょう。

 

●贈与と相続どちらでも出来るが、贈与でやるのが鉄則

経営承継円滑化法は贈与と相続のどちらのタイミングでも出来ますが、株価をコントロールしてかつ株式を確実に後継者に移転させるためには、贈与でやるのが鉄則です。
相続でやろうとすると、株価がコントロールできず、また遺言書をきちんと整えて、自社株式の移転先を後継者に指定できるならいいですが、
遺言書がなく遺産分割協議になってしまいますと、遺産分割会議に時間がかかり死亡後8カ月以内に出さなくてはいけない申請書を、提出することが出来なくなってしまう可能性が高くなるからです。

 

●忘れがちな「就任してから3年」!後継者を入社させたら、とにかく取締役に就任させるべし

さて、贈与でやることが決まったとして、一つ大事なことがあります。
経営者と後継者の要件にはいくつかあるのですが、最も忘れがちなのが、後継者は取締役に就任して3年経過していないと、たとえ自社株式を贈与しても認定されないということです。
社内外にわざわざアナウンスする必要はありませんが、登記上だけでも取締役に就任させるべきです。

 

●後継者にだけ有利。ほかの兄弟のためにも特別税制と民法特例をセットで申請するのがコツ

この法律を使う時に見落としがちなのは、税金の繰り延べが終わって、ほっと一息ついてしまい、その後に起こるであろう兄弟間の争いを軽視してしまっている場合があるということです。
この法律は、後継者だけにたいへん有利に出来ている制度なので、あとで後継者だけが相続税を払っていないのを横目に、他の兄弟が多額の納税をしなければならない場面で、遺留分の話が持ち上がってきたりするのは避けなければなりません。
そこで、お勧めなのが、民法特例です。
民法特例を使って、予め法定相続人全員で同意書を作っておけば、あとあと遺留分のことでもめる心配はありません。
民法特例の中には除外合意と固定合意があるのですが、選択すべきは除外合意でしょう。(これについて記述するとまたわけがわからなくなるので、簡単に言えば、自社株式だけを個人の相続財産から横に外しておくという合意を法定相続人全員で行うことによって、その他の財産に対してだけしか遺留分を主張できないようにすること)

納税猶予されるから株価を考慮しなくて良いかというと、もちろん制度を使う場合でも株価は考慮すべきです。後編では株価に関するセオリー等、引き続き、知っておくべきポイントをお話し致します。

 

(Writer:金子 一徳)