2019~2020年に事業承継の世界で何が起きたか?

今年はコロナ一色でとうとう年末を迎えることになってしまいましたが、事業承継の世界では様々なことが起きました。そこで、この2年間で起きたことを総括してお話したいと思います。

<新:中小企業強靭化法の施行>
2019年7月16日、中小企業の事業活動の継続に資するため、中小企業の災害対応力を高めるとともに、円滑な事業承継を促進するための、通称「中小企業強靭化法」が施行されました。
時は、まだコロナという言葉すらなかったわけですが、まるで社会現象を先回りするような正に事業継続のために日頃からBCPを意識した経営を中小企業もするべき、ひいては事業承継も事業継続には極めて大切だという視点に立った法律であり、時代を先取りしていた感がありました。2020年に入りますと、コロナという未曽有の事態が起きたため、BCP策定をする企業が増えました。
弊社では、BCP策定はコストと時間がかかるので、まずは国が推奨する「事業継続力強化計画」の認定を勧めているところです。ちなみに弊社も同計画の認定をしてもらいましたが、申請書はわずか7~8pでトータル10時間もあれば書けますので、自社のことをよく知る機会としては最高だと思われます。
具体的なメリットとしては、①ものづくり補助金の加点要素なる、②保証協会や政府系金融機関の金利優遇(条件により金利は異なる)、③税制優遇(特別償却20%)、等があります。後継者が取り組めば、会社のコア事業を理解し、危機的な対応にどのように準備するか、ということを通じて会社の中身をより深く知るチャンスにもなりますので、ぜひ作成してみてはいかがでしょうか?

 

<改:銀行法の改正>
2019年8月7日に金融庁から、銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令が公表されました。いくつかルールが変わりましたが、そのうち事業承継に係る分野としては、銀行が投資専門子会社を通じて子会社とすることができる会社の範囲に、事業承継会社を追加したことが、今回の目玉になります。これまでは通称5%ルールというのが銀行法(独占禁止法上では銀行と保険会社に5%ルールを適用)あり、銀行は機動的に融資先の会社の株式を保有することが出来ませんでした。これは、かつて5%ルールがなかった時代に融資先の株式を保有し過ぎた結果、バブル崩壊で日経平均が下がった時に、株価下落が銀行の本業を圧迫したという苦い経験があったためにルールが設けられたと言われています。
今回の改正は、もともと子会社の範囲規制の例外として、「経営の向上に相当程度寄与すると認められる新たな事業活動を行う会社として内閣府令で定める会社」を、一定期間、投資専門子会社を通じて子会社とすることが認めるとなっていましたが、改正案に基づく銀行法施行規則17 条の2 第7 項9 号に、「代表者の死亡、高齢化その他の事由に起因して、その事業の承継のために支援の必要が生じた会社であって、当該事業の承継に係る計画に基づく支援を受けている会社」が加わることとなったというものです。ただし、保有期間は、原則として取得日から5 年を経過する日と定められています(同第11 項)。
よって、事業承継する会社は、事業承継ファンドだけでなく、銀行の子会社を通じて出資を受けることが出来るようになったというわけです。既にメガバンクや一部の銀行はこの動きに対応しており、今後はダイレクトにM&Aをやるのではなく、ワンクッション銀行の子会社化を受けいれた後に、M&Aや第三者承継を選択していくというスタイルも出てくることになるでしょう。
ここでポイントとなるのが『承継に係る計画』という文言ですが、きちんと事業承継計画を策定することがますます重要になるでしょう。事業承継計画をどのように立てるかご興味のある方はこちらをご覧ください。
https://www.jigyousyoukei.co.jp/2020/12/14773/

 

<中小企業成長促進法>
2020年10月1日付で、中小企業が事業を引き継ぐ際に、経営者の個人保証を不要にする制度を盛り込んだ中小企業成長促進法が施行されたのは記憶に新しいところです。
事業承継を進める際、後継者候補が現経営者の経営者保証の存在を理由に、事業承継を拒否するというようなケースが生じています。これに対し、信用保証協会が経営者の個人保証を肩代わりするという制度です。この法律の適用を受けることによって、現経営者は連帯保証人が解除され、新たに後継者は保証協会がその肩代わりをしてもらうことで、安心して経営を引き継ぐことが出来ます。なお、今回の法律は、親族内承継だけでなく、M&Aも対象としているのが特徴であり、①売り手向け(引き継ぎしやすく身軽に)、②買い手向け(スタート時からの重荷解放)に、経営者保証なしの信用保証メニューを創設し、金融機関が経営者保証を外しやすくしています。
ここでポイントとなるのは、この法律で新たに追加された「経営承継借換関連保証」の適用を受けるためには、経営承継円滑化法の認定が必要となることです。ということは経営承継円滑化法の適用を受けようとする理由に、贈与税・相続税の繰り延べ効果、民法特例による家族間不和の事前回避、に加えて、連帯保証人制度を外すことで後継者に事業承継の決断を促す、が加わることになるでしょう。ここでも、大事なのは計画的な事業承継すなわち事業承継計画を立てるということになるわけです。

令和2年は、コロナにより事業承継よりも業績立て直し、リスク対策が優先された年でしたが、令和3年は先送りされていた事業承継が再びクローズアップされる年になることは間違いないでしょう。(こうした関連情報は、事業承継士および事業承継プランナーの皆様には「情報誌ツナグ」と「会員向け事業承継通信」で入手することができますので、ご興味のある方はこちらをご覧ください。
https://www.jigyousyoukei.co.jp/shoukeishi/

(Writer:金子 一徳)