事業承継で準備しておくべきポイント 前編

事業承継コンサルティングの現場で、時たまあるご相談が「事業承継をしたいんだが、何から手を付けていいかわからない。」という類です。この時、経営者の心理として、本気で事業承継を考えているのだろうか?という疑問を持ちながら、次の質問をします。

『社長交代はいつを予定されていますか?』

この質問に対する回答次第で、おおよそ3年以内に事業承継を行うにあたっての具体的な対応をしたいので、アドバイスが欲しい、と言っているのか、あるいは、まだまだ事業承継は先だけど、将来何か問題にならないように今から出来ることはあるのか?という漠然とした不安や悩みだったりすることがわかります。

前者の場合、お勧めしているのが、『事業承継計画書』の作成です。事業承継計画書は、“経営者と後継者の想いをつなぐ大切な文書”と定義し、「経営者と後継者が本音を語り合う」ことで作成していきます。これをせずにお互いに伝えたいことを伝えないままで社長交代を迎えてしまうと、後でこんなはずではなかった、という後悔、怒り、反発に繋がってしまい、うまくいかないことが多いのです。

具体的に事業承継計画書に盛り込む項目として、詳細にやろうとすると、自力で埋めるのはたいへんなので、A3用紙1枚に収めるような一覧表をまずは作りましょう。ここで、一番最初にやらなければいけないことは、社長交代日を記入するという作業になります。日付を入れる、たったこれだけのことですが、これがもしできない経営者は、まだ本気で事業承継を考えていないか、後継者が決ま手いないか、育っていないか、他に重要な課題がある可能性が高いので、別途対応を取る必要があります。
ここで無事に社長交代日を入れることが出来ましたら、あとは下記の5つのポイントについて準備を進めましょう。

(1)株式の移動先と方法、タイミング
後継者に何株をいつから持たせるか?というのは極めて重要なポイントです。後継者が経営者の子供や甥・姪であるなら、贈与にしてなるべく負担をかけずに渡したいと思うでしょう。それなら、前回解説した経営承継円滑化法を使ってもよいですし、暦年贈与制度を使って、計画的に移転しておくという手もあります。ただし、後継者の持ち分が50%を超えたタイミングで、法的には経営権は後継者に亘ったことになりますのでそのタイミングをいつにするかはよく考えてください。もちろん、後継者を完全にコントロールする手法と自信があるならば、構いませんが、万が一の事態は常に想定するべきでしょう。それと、後継者単独で持たせるか、後継者の配偶者と合わせて株式を移転するか?これらに対して我々は、後継者単独で2/3以上を保有させるべきだと、アドバイスしています。配偶者は離婚すればただの他人です。そこを忘れてはなりません。

ところで、後継者が親族外であった場合は、株式移転先をどのように考えたらよいのでしょう?これには大きく2つの選択があります。1つ目の選択は、株式をその後継者に移転させ、経営権だけでなく所有権も渡して、一族と経営を切り離すという選択です。この場合は、通常、贈与という形態を取らずに、売買になることが多いので、買取り資金の手当てします。保険で賄うか、銀行借入にするか、給与を増額するか、ファイナンス・税務などを総合的に考えておきましょう。2つ目の選択は、経営権と所有権を分離する方法です。すなわち、株式だけは経営者一族に移転することで、後継者には株式を買い取るという負担をかけず、また経営者一族は、配当という形で利益を一部享受していくことになります。

 

後編では、事業承継で準備しておくべきポイントの残りの4つである(2)後継者教育、(3)肩書と権限、責任、(4)会社と経営者個人のカネのやり取り、(5)心の準備、についてお話致します。