事業承継の解決策の一つとしてのM&Aを検討しよう

弊社は事業承継の形態として、お子様やお婿様といった親族内承継および役員・社員といった社内承継を推進するコンサルティング会社です。しかしながら、外からスカウトしてきた第三者に承継させる方法や、M&Aを否定しているわけではありません。これらはあくまで、事業承継の一形態にしか過ぎず、それぞれの企業規模、業種・業態、経営者の考え方、後継者の有無および経営能力の有無、などを総合的に勘案して、決定すべきものだと考えています。今回は、このうちM&Aという形態について考えてみたいと思います。

さて、いきなり質問ですが「皆さんの会社はM&Aで売却できると思いますか?」
 
この問いに対して、自信を持ってYESと回答出来る人はなかなかいないのではないでしょうか?しかし、当方から言わせてもらいますと、“本気で”M&Aを考えるのであれば、かなりの会社が対象になります。“本気で”とは、何が何でもM&Aをやり切るという決意を持っているかであり、希望通りの売却額にならなくても構わないので、とにかく引き継いでもらうことを最優先にできるか、、、という意味です。
よく経営者の口から出てくる言葉に「この技術はうちしかできない。」「業界ではトップクラスだ。」と、言われるのですが、失礼ながらそれはリサーチ不足でありまして(ある面しょうがいないと思いますが)、その会社で確立できている技術は少なくとも世間を見渡せば、数社は見つかりますし、トップクラスというのも現実には勘違いしていることが多いものです。つまり、M&Aという市場に放り込まれてしまうと、評価はかなりシビアになるということを覚悟すべきだということです。

同じように「買われた後にリストラがあるかもしれないし、待遇面が心配だから」とか「買われた後にサービスや製品内容を変えられてしまうのではないか?」と言われるのですが、残念ながらというか、そういった心配は杞憂なケースがほとんどで、ダメな社員がリストラされるのは当たり前として、能力をきっちり発揮してもらう従業員は引き続き雇用されますし、待遇面に関してはむしろ良くなるケースが圧倒的に多いのです。また、サービスや製品の内容は改善されてさらに良くなることもありますので、心配には及びません。だいたいにおいて、自分の車や自宅を売却した後で、車を改造しようが、自宅をどのように使おうが、それは買い手の問題であって、要は大切に扱ってもらいさえすればいいわけです。それをなぜか会社の場合だけは売却した後のことまで心配しているのは、不思議な気がするのは私だけでしょうか?

 では、M&Aしやすい業種・業態にどのようなものがあるかと言いますと、コロナ前までは多数の雇用がついてくるビルメンテ・訪問介護/看護、IT関連企業、顧客ストック型である不動産・学習塾、免許許可制である建設業・産廃業などでした。しかし、コロナ禍では、これが一変しました。かつて人気業種であった飲食業・ホテル/旅館業は大打撃を受けて、安く売り出されていますし、小売業・サービス業などは、軒並み人気がなく、こちらも不人気業種になってしまいました。

 このような中において、どのようにすれば、会社をM&Aで高く売ることが出来るのでしょうか?ショーウィンドウであなたの会社を輝かせるために重要なことです。
① 業績が右肩上がりの絶好調の時に売る
② 社長がいなくても回る仕組みを作っておく(つまり社長が暇な状態を作り出す)
③ 高齢になる前に売る
この高く売るための3原則をすべて満たしている読者はまずいないでしょう。だから、M&Aでは高く売ることが難しいのです。
そして、最もここが肝心ですが、売却額を高く提示することに尽きます(笑)。もちろん相場よりも高過ぎてはだめですが、強気に押していくことは売るという行為においては極めて重要です。そのためにも、①~③の状況を作りだしておけば、心と時間とカネに余裕が生まれ、強気な交渉が出来るというわけです。

 そうは言っても、よく売却額の目安や計算方法を教えてほしいと言われますので、いくつか計算方法を提示しましょう。

(1)時価純資産価額方式
 企業の資産を時価評価し直すことにより、実体としての純資産を計算します。土地や有価証券のようにマーケットがあるものは時価評価が容易ですが、ないものはそのまま簿価で簡便的に計算しても構いません。この方法はネットアセットアプローチと言って資産面を重視した計算方式になります。

(2)EBITDA
 最近よく聞くようになりましたが、要は税金/支払利息/減価償却を元に戻して(足し込んで)計算する方法です。これはいわゆる借入金額や過去に投資した設備投資額などの影響を除いた収益力に着目しますので、装置産業、ホテル・旅館業などに向いた計算方式になります。

(3)DCF
 企業が将来獲得すると期待されるキャッシュフローを現在価値に割り戻した合計額になります。これは、安定した業績を出しており、向こう3~5年くらいの事業計画がある程度確実に見込めるような業種(例えば不動産賃貸業など)に適しています。

…と、ここまではいわゆる一般的な企業に使われる評価方法を見てきましたが、中小零細企業で、実際に使われる計算方法があります。

(4)リタイアメント逆算方式
 これは聞きなれない言葉だと思いますが、要は、どのくらいの価格で売却できれば満足するのか?売った後に生活していけるのか?という視点から計算する方式です。そのためには、現在の財産から換金できるもの(現預金・賃貸不動産・有価証券など)にリタイア後の収入を加え、さらに突発的なマイナス要素を引いて、大雑把に計算した金額になります。どちらかと言えば、(1)~(3)の計算方法よりは割高になってしまいますが「この金額でなければ生活が出来ないでしょうから、買い手が面倒を見ましょう」という発想です。小規模会社に適しています。

(5)希望額逆算方式
 こちらも逆算方式ですが、規模は小さいけれど利益が計上されているような中小企業のイメージです。オーナーも高齢になっていて、とにかく従業員の雇用が守られればそれでいい、取引先が困らなければいい、というケースです。この場合、そうは言っても価格を形成しなければならないので、便宜的に計算するというイメージです。よく使われるのが、現在の簿価純資産に向こう3~5年の税引後利益をプラスするという感じです。

この(4)と(5)の方式はいい加減といえばいい加減ですが、その会社の価値とはそもそも何なのか?という命題に突き当たった時、結局のところ、買い手と売り手が合意できれば、それで商売は成立する、という原則に立ち戻った方式とも言えるでしょう。

(Writer:金子 一徳)