弊社と事業提携しているT信用金庫では毎月1回、各支店持ち回り開催で、事業承継相談会を開いています。
私はこのシステムを提案し、採用されてから、今年で15年を数えることになりました。
当初の相談会は混乱していました。
案件として成熟していないもの、当事者が事業承継をまるで理解していないもの、そもそも相談する気がないモノ・・・・すべては顧客を誘導する現場の信金マンに、基礎知識がないことが原因でした。
そこで、本部にお願いして職員の教育プログラムに「事業承継の基礎知識」を加えていただきました。そして、人事評価のポイントとして、明確に「事業承継の支援を行う」という項目を作っていただきました。
同時に貸金を稟議する書面に、第三の資金使途として「事業承継資金」を加えていただきました。
こうして書いてみると、簡単なことと思えます。
① 共通目的を「事業承継」に!
② 職員の研修で「事業承継の知識を武器に」
③ 職員のモチベーションアップ「地域を支える事業承継」
しかし、現実に現場が成熟して、必要な経営者に必要な情報を提供して、相談会に参加させる、という手順が完成するまでには10年を超える時間が必要でした。
昨年からはコロナという非常事態の中で、どうやって仕組みを維持するかが大変でした。
WEBやリモートではできません。
当事者である経営者も信金マンも、互いがコミュニケーション不足でした。
そこで、改めてツールを見直し、手配りで戸別訪問をしていただいたのです。
① 「事業承継ノート」を、入門的な説明に使い、準備不足の経営者には事業承継計画の必要性を説いていきます。
② 「後継者ノート」を、迷っている「あと取りさん」や「子供たち」に配布しながら、勉強することで自分を強くして、後継者に成る道を示しました。
③ 「仕事の手仕舞いノート」を、廃業を意識している現社長にお見せして、早まってはいけないと釘を刺します。
④ 「事業承継はじめの第一歩」を、全くやめるそぶりのない現社長に見せて、ワンマン社長の末路を知っていただきます。
⑤ 「事業承継と保険のはなし」を使って、資産運用や不動産の処理を考えている社長の奥様、後継者の妻などの周辺の方から攻めていきます。
さらに、こうしたツールだけでは手が出ない顧客、見込み客、未取引先に対しては、「無料相談会」のチラシをまいていきます。
本来は次のサイクルで事業承継の支援を展開するのですが、セミナーが使えないので、苦しいところです。
① アンケート配布
② チラシ配布
③ レスポンス先への訪問
④ セミナーに誘客
⑤ セミナーアンケートから訪問
⑥ 相談会への集客
⑦ 戸別訪問での専門家派遣
⑧ 専門家の企画提案書で顧問契約
⑨ 顧問契約に基づく課題解決
⑩ 事業承継資金融資
こうしたスマートな展開をコロナが止めてしまいましたが、逆に今までとは異なる相談会への参加者が増えました。
従来は以下の順番でしたが、、、
① 高齢の現社長の大雑把な相談「事業承継の手順を知りたい」という本人のニーズ
② 現社長がワンマンなので「どうやって代表交代すればいいか」という奥様の相談
③ 後継者があきれた顔で、親父は辞める気がない・・・「猫の首に鈴」をつける相談
ところが最近増えてきた相談は
① 従業員が、うちの会社の将来が不安「だれも後継者に成りたがらない」
② 後継者が、自分ではこの会社が守れない「跡取りとしての自信がない」
③ 現社長が、コロナで将来が暗い「私の代で会社をたたもうと思う」
相談会は世相を反映してどんどん変わっていきます。生き物のように人の心は変わりやすい。外の風に流され押されて、舞い散る桜吹雪のように、マインドが定まりません。
それほど、コロナがもたらしたショックは現社長、後継者、利害関係者に多大な影響を与えたのです。
後編では、2021年に私が考えていることを、まとめて書いていきます。
(Writer:内藤 博)