「事業承継相談会の一番多い質問は?」(後編)

前回からの続きです。後編では、2021年に私が考えていることを、まとめて書いていきます。

コロナショックは一過性のものではなく、社会を根底から変える大きな振幅を持っていることを、はっきりと認識しましょう。
「そのうち良くなり、元に戻る」
そんな甘いシナリオはありません。
閾値を超えた変動は、決して元に戻ることはできません。

その前提をすべての対応策に当てはめて考えてください。
最前線は「コロナ廃業対策」です。
裏筋は「今のうちに事業承継を進めよう」です。

業績悪化が目に見える企業では、明確に廃業戦略を練らねばなりません。
これ以上赤字が続く前に、キチンと仕事を手仕舞いし、次の人生にマイナスを持ち込まないことです。負債も返済義務も、風評被害も、次の展開にとって足かせとなりますから、どこで切り捨てるかが重要です。

そのためには、現社長のマインドチェンジが重要なのです。
迷っている経営者の背中を押すことが、事業承継士の大きな役割として期待されています。

特に金融機関のご紹介で企業者と面談する場面では、「刺激的な言葉」、「第三者のクールな意見」、「時には突き放すことも」必要と思います。
その理由は、金融機関は当事者であり、「顧客に嫌われる」言動はできない、という商売上の足かせがあるからです。

先日の相談会でも、迷っている経営者の背中を押し、厳しく現実を指摘して、「今日の赤字を招いたのはコロナではなく、あなたの経営手法が原因だ」ということを言いました。ご本人もウスウス理解していることを、赤の他人にいきなり指摘されて、言葉を失っていましたが、たまには強烈な刺激も必要です。

数日後に、コンサルティングの相談が携帯電話に入ってきました。

私は来年70才になります。
この年かさを増した風貌やおでこのしわが、現社長の年代に近く、共感があるので、ここまで言えるのです。

若い皆さんは、言葉に注意してくださいね。
昔は顧問先から「白髪になって顔のしわが増えたら、もう一度おいで」と言われ、追い返されたことを思い出します。
逆に若さや女性であることをもっと武器に使ってください。
後継者の数少ない味方になってあげるにはどうすれば良いでしょうか?
上から目線が嫌われるのは当然として、専門知識を振りかざして、あるべき論で押していくのはいかがなものでしょうか?
それよりも、後継者の境遇に共感を持ち、うなずきを持って寄り添い、背中を支える専門家になってください。
後継者はとても迷っています。
今までの上下関係や、親子としての生活の長い時間を引きずっています。
いきなり下克上のような劇的な転換はトラブルの元です。

事業承継士、事業承継プランナーの資格をすでに持つ皆さんは、時代の流れを再びしっかりと見直して、ご自分の活動方針を立てなおしてください。

事業承継の支援ニーズは「潜在的には巨大なボリューム」があります。
しかし、日本人の気質として、「人に相談できない恥ずかしいこと」と思い込んでいる方が、たくさんいるのです。支援の必要な方にどうやってアクセスするか。コロナ時代のあたらしいネットワーク構築法を皆さんで考えていただきたいと思います。

一般社団法人事業承継協会では、古典的ですが、ツールを強化していきます。
紙に印刷されたものをありがたがるのは高齢者の特徴です。
皆さんが戦えるような武器を供給できるように、ツールの作製を頑張っています。

(Writer:内藤 博)