コロナ禍でSNSに集まった経営者の英知

1.後継者塾コロナ対策実行員会とは
令和2年4月7日に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が政府より出されました。それを受け弊社では、4月8日に「後継者塾コロナ対策委員会」というLINEグループを立ち上げました。
立ち上げの目的は、コロナウイルスという誰も経験のない未曾有の危機から、経営者として会社を守り抜くために、皆で情報を共有し、知恵を出し合うことです。
参加者は、後継者塾ベーシックコースに参加した1期から9期までの塾生OBに、途中から10期の現役塾生が加わりました。さらに、後継者塾ベーシックコースの講師、サブ講師、弊社役員です。最終的には76名の巨大なグループが形成されました。

 

2.弊社から提供した情報
参加者は、後継者塾のOBが中心であり、すでに社長になった方もたくさんいらっしゃいます。まだ社長でなくても責任ある立場の方々が集まっていますから、何とか会社をこの未曽有の危機から守らなければならないという使命感が、投稿の中でひしひしと感じられました。
弊社(事業承継センター)からは、融資情報や補助金、助成金情報、相談窓口、専門家派遣などがリリースされるたびに、簡単な解説をつけて投稿し、制度面から危機回避のお手伝いをいたしました。経産省関係、厚労省関係、全国発信、自治体の個別発信、商工会議所や振興公社など、実施の主体別の告知では一覧できないので、存在に気付かなかったり、制度の違いが分からなかったりで、企業側には不親切に映ります。「実行委員会」のグループは、それらたくさんの制度を網羅的にご案内する、ポータル的な役割を果たせたと思っています。

 

3.参加者が発信、共有したこと
参加された皆さんから投稿された内容は、感染防止のための対策や、セルフチェック、顧客に対する対応方法、社員に対する指示内容や休ませ方、その際の補償、社員から感染の疑いの出た場合の対処方法、テレワークの導入方法、この際足を引っ張っている社員をなんとかできないか、など、本当に多岐にわたりました。具体的なものとしては、「事務所内のルール」「出社時。勤務時のルール」「会議室利用のルール」「昼食時のルール」「休憩所使用のルール」などの張り紙を写真で投稿してくれたり、感染防止のために事務所の机の間を段ボールで間仕切りした写真をあげてもらったり。すると、すぐに参考にして取り入れるメンバーが出てきて、その写真を続々とアップしてきました。
これらを見るうちに、「お金をかけない」「すぐにやる」「良いものは徹底的にパクる」という、中小企業の柔軟性とたくましさを感じることができ、頼もしい仲間がたくさんいることに誇りを覚えました。見てくれより、実を取る日本の中小企業の経営者は凄い!本当にそう思いました。

 

4.若い後継者が投げかけた波紋
その中で、若手後継者が自社のコロナ対応のガイドラインを作成し、社内に示すと同時に、グループに内容が写真でアップされました。特に素晴らしかったのは、「陽性者が出たときの、経営者が社内外に対してとるべき行動」を明確化したことです。
これには、ベテラン社長の方々も驚嘆し、称賛が沸き起こり、「自社も参考にさせてください」という声が次々と投稿されました。若い人たちが、経営者の視点でここまで考えているという驚きと、リスペクトの気持ちの表れでした。皆さん、会社の経営を人生の中心においており、会社が生き残るために必死で、会社の規模も、年の差も、肩書も、経験も関係なく、経営にとって良いものは良い、見習うところは見習らうという真摯さがSNS内にあふれていました。どこを見ても、「会社を守るための経営者としての当事者意識」だらけでした。
ベテラン社長のこのような“必死さ”に一番驚いたのは、アップした若手後継者だったかもしれません。

 

5.委員会を振り返って
コロナ禍は、経営者の責任は一切ありません。だから補助金や助成金を受ける、お金を借りる、支払いを猶予してもらうなど、堂々とやってよいのです。もし、これらを検討せずに会社を傾かせたら、それこそ経営者の重大な責任問題です。社員のために、危なくなるずっと前から、生き残る術を考えるのが、経営者の仕事です。
そして、限られた情報の中で、判断や決断をするのが経営者であることを、SNSのやりとりで再確認しました。後になれば何でも言えるけれど、わからない状態の今ここで判断しなければならないのがトップの使命です。評論家であってはなりません。社員の迷いを断ち切り、前に進むための決断を経営者は常に求められる、コロナウイルスにそれを試されたのだと思います。その勇気をほんの少しだけれど後押したのが、この「後継者塾コロナ対策実行員会」であり、集まった経営者たちの英知であると確信しています。

 

(Writer:東條 裕一)