ロジカルシンキングという武器を後継者に教えよう!

私のライフワークの一つは、「教えること」だ。毎年、様々なテーマの研修を行うが、今年、ある県庁から依頼をいただいて行った研修が「ロジカルシンキング」だった。MECE(ミーシー)とか、帰納法とかが出てくる、おなじみの科目である。コンサルタントに必須の思考法なので、そんなことコンサルタントとの自分は当たり前にできているぞ、と私は結構なめていた。初めてやる研修だけどテキストは簡単に作れるな、楽勝だ!なんて余裕をかましていた。いやいやなめるものじゃなかったな、テキストを作るだけで相当苦労した。書籍を何冊も読んでやっとの思いでテキストを作った。そして、苦労した後で気づいたことがあった。

「ロジカルシンキングって、後継者塾で教えるべき必須科目だ‼」

後継者塾の塾生の中で社長になった人がいる。その人に後継者の時と経営者になった後では何が違うかについて講演してもらった時、彼はこうおっしゃった。
「経営者になった途端、意思決定する責任の重さで押しつぶされそうだ。後継者だった時は上に社長がいたから最終責任者は自分ではなかった。経営者になると最終責任者は自分なので逃げ場がない。意思決定することが怖い。毎日顔がこわばってしまって笑顔を作る練習をしてからでないと従業員の前に出られない」。

意思決定は難しい。経営者は外部環境が変化する中で絶えず意思決定が求められる。正解なんてない。誰かを頼ることもできない。手探り状態で、孤独の中で意思決定する。この難しさ、迷い、恐怖は想像を越えたものだろう。当事者にならなければわからないのだ。

後継者塾の目的の一つは意思決定できるようになることである。そのためにカリキュラムが組まれており、例えば、「具体的事象が起きた時にはそれを抽象化して裏側に隠れている真の原因を見つけよう」と教えている。これがロジカルシンキングだ。また、ホワイトボードを使って議論し、発散させたアイデアをグルーピングしてタイトルをつけて、グループ同士を結びつけて結論を導いたりしている。これもロジカルシンキングだ。ここをもっと掘り下げて、後継者がロジカルシンキングの手法のいくつかを身につけられたら、意思決定しやすくなるのではないか。自信をもって決断を下せるようになるのではないか。なぜなら、ロジカルシンキング、すなわち論理的思考は、正しい意思決定を行うための道具だからである。
ここで私は私に問うてみた。
「私は、後継者塾でロジカルシンキングを意識して教えてきただろうか?」
答えは否であった。それらしくは教えてはきたけれど、意思決定の武器として使えるとは教えてこなかった。これは大いに反省せねばならない。

具体例で考えてみよう。
「○○区の事業承継支援事業をサポートするのは事業承継センターが最もふさわしい。」これをロジカルシンキングの手法の一つである「根拠の立体化」を用いて説明してみよう。

「根拠の立体化」の手番はこのようになる。
①根拠を考える。できるだけたくさん根拠を考える。
②考えた根拠を複数並べてグループ化し、そのグループが何を言っているかをまとめる。何を言っているかをまとめることを「抽象化する」という。「抽象化する」を簡単に言うなら、「だから何?」と自分に問うことである。
③抽象化したことをまとめて「結論」を導く。

根拠を複数並べることですそ野を横に広げ、抽象化することで縦に伸ばす。横と縦なので立体化になる。

答えはこうなる。
他の自治体で支援実績がある(根拠1)、サポートメニューが他の自治体と同様である(根拠2)、事業承継センターのメンバーが同じである(根拠3)。3つの根拠をまとめて抽象化すると、今回も実績を上げる可能性が高いとなる(抽象化)。よって、事業承継支援事業をサポートするのは事業承継センターがふさわしい(結論)、となる。

この手法は後継者が意思決定する際に使える。意思決定の場合、やるべきかやらないべきか、その理由を一生懸命考えるだろう。そうなると考えても考えても結論が出ないという状況に陥ることが多い。一晩中寝ずに考えたけれど結論が出ないという状況を抜け出すためには、考えたことをまとめて抽象化することである。考えたことを書き出してみて、まとめると何が言えるのかを考えることである。考えが堂々巡りして結論が出ないのは、「抽象化する」というひと手間を加えることを忘れているからである。

「感覚で経営している」、「たまたま勘が当たっただけ」などと先代社長や現社長のことを言うのではなく、思考のプロセスを聞いてみよう。どこかに抽象化したポイントがあるはずだ。そのポイントを見つけたい。大切なことは結論をどう導いたかという思考の流れである。
「成功の裏に抽象化あり」である。

ロジカルシンキングには他にも多くの手法がある。私は、後継者にロジカルシンキングという武器を授けたい。武器の使い方を後継者と一緒に考えたい。
経営者になった時の彼らのこわばった顔が少しでも和らぐといいな。

(Writer:石井 照之)