事業承継計画書と年齢

事業承継士として、日々多くの経営者と面談していると、若年層からの相談が増えているような気がする。
今までの大きな潮流は、年齢を重ねてきて、いつの間にか高齢者と呼ばれるようになってしまい、気が付いたら待ったなしと言われて、ようやく重い腰を上げて専門家のドアをたたく、、、そんな70~80代がメインの相談者だった。

ところがコロナのせいなのか、仕事が減り在宅時間が増えたのか、長期的な経営について考える機会が増えているのか、年齢性別を問わず、多様な相談が持ち込まれるようになってきた。

とりわけ驚くのが、若い創業者と思われる現社長からの問い合わせだ。
どうやら彼らは自分の作り上げてきた会社の経営に、一つの形が見え始めて、永続性とか、10年先をどうするかといった、長期的なプランが必要になってきたのではないだろうか。こうした相談案件に対する事業承継士の対処法について考察したい。

 

具体的事例をあげると。
現社長はまだ42才、当然だが会社は創業から10~12年という成長期から安定期に入り始める時期である。ご相談の最初に、私は勘違いしていて、この方が後継者ではないかと思い込んでいた。
ところが彼は、開口一番「後継者を決めたので逃げられないようにしっかり育てたい」そして、数年後に事業承継を行い、代表取締役を譲りたい、とまで言うのである。
世の中の標準とはかけ離れているので、とても驚いて質問を繰り返していくと、彼の真意が見えてきた。

「コロナで仕事が減り、先のことを考える余裕ができた」
「目の前の仕事に忙殺されていたから、社長の本来業務に気が付かなかった」
「食うための仕事ではなく、自分の人生と仕事の関係を考えるようになった」
「私に付いて来てくれる若者に夢を与えたい」
「自分には次にやりたいことが見えている」
「若くて元気があるうちに次の挑戦に向かいたい」

 

結論として彼のプランは次の通りだ。

1. 成功した創業会社を安定経営に進めたい
2. 創業期から頑張ってきた仲間に仕事を任せたい
3. 単なるワーカーではなく経営者として育てたい
4. 権限と責任を背負い次のリーダーになる人材がいる
5. 今の事業を渡して新規展開に進みたい
6. そのための経営組織づくりに専門家として力を貸してほしい

つまり、事業承継というキーワードだけでは収まらない、人生計画と新事業への転身をプランニングしたい、その支援をお願いしたいというものである。

経営戦略>事業承継

ある意味で、「会社経営の長期戦略の一部が事業承継」なのだと、彼は考えている。
私は頭を雷に打たれたようなショックを味わった。
事業承継を人生のゴール、ハッピーリタイヤととらえてきた価値観が、大きく違っていることを気づかされた。
事業経営に成功して、高値で会社を売り抜けて、若いうちに引退して南の島で遊んで暮らす・・・そんなステレオタイプの紋切り型ではないのだ。
ベンチャー企業を起こしてIPOによって大金を手にする。そういう夢もあって良いだろうが、現実的には成功の確率が異常に低い。
では、堅実に創業して伸ばしてきた会社を、どうやって維持しながら新しい分野への挑戦ができる体制を築くのか。
その回答の一つが、「ホールディングス化」ではないだろうか。

相対的に事業価値が上がってきた会社を「子会社」として抱え込み、親会社はペーパーカンパニーとしてブランド価値を付け、信用創造・与信能力を上げる。
現社長は会長職としてバックサポートに回りながら、新事業を新しい子会社としてスタートする。
祖業の子会社には後継者を新しい代表取締役として抜擢する。
業績連動報酬とリスク分担を行いながら、グループ経営に変態することで、現業の維持発展と、新事業への挑戦を行おうとするビジネスモデルだ。

 

実はこの相談は、彼が事業承継補助金を求めたから、出会った案件だ。
新しいことを考えながら情報収集を行っていた現社長が、無料専門家相談=事業承継士という存在と、事業承継計画書を見つめて、改めて自分の人生を振り返り、次に進むべき道を見つめるキッカケになったのだと言う。
それまでモヤモヤしていた未来が、事業承継計画書によってハッキリと形になって見えてきたのだと言う。

事業承継士のために開発された多くのツールには、開発者が思い描く使用法とは全く異なる、新しい効用が生まれている。

事業承継計画書は、無限の可能性を秘めた「未来計画書」である。

事業承継士はいち早くこのツールを使いこなせるようになって欲しい!

(Writer:内藤 博)