大切な社長の仕事をしていますか?

ある女性社長のことが忘れられない。その方は40代で、研修を企画して講師を手配し、企業に提案販売する仕事をしていた。していた、というのは、既にその会社は廃業してしまったからだ。

某大手航空会社のグランドスタッフ出身の経験を活かし、マナーやコミュニケーション系の研修を中心として販売していた。自らが看板講師であり、いつ会ってもシャキッとしていて、朗らかで、前向きな姿勢に、魅力的な方だと感じていた。

しかし、経営的にはとても厳しく、なかなか仕事がとれない中で、貯金を崩して会社を運営している状況が続いていた。筆者はいつも前向きな社長をサポートしたいと考え、何度かアドバイスの機会を持った。社長の持ち前のバイタリティもあって、状況が好転しそうな状況がほんの少し見えてきた。

そのような中、次の日程のリスケの連絡がきた。数か月、何の音さたもないまま時間が過ぎ、突然お話があると電話があった。
会ってみると、いつもと変わらない、シャキッとしていて、朗らかで、前向きな社長がいた。話を聞くと、悪性の腫瘍が見つかって、入院していたとのこと。しかし、事業意欲は衰えておらず、これからも仕事を頑張る!とポジティブな気持ちも相変わらずだった。
会社も厳しく、大きな病気も見つかったという、絶望のどん底にある中で、なぜここまで明るく、前向きになれるのだろう?失礼とは思ったが、勇気をもって聞いてみた。「なぜ、そこまでポジティブになれるのか?」と。

社長は、配慮を欠いた質問にも、満面な笑顔で答えてくれた。
「人間は、たくさん悩みを抱えているので、放っておくと、必ずネガティブになってしまう。もちろん私もその一人である。もともとポジティブな性格の人は、世の中で一握りだと思っている。でも、ネガティブのままでは、会社も仕事も絶対に好転しない。そんな人に仕事を出そうとしないし、社員もついていこうなんて思わない。ネガティブな私も、ポジティブにならなければ会社のトップは務まらない。ポジティブになるというのは、社長の仕事です!」

 

社長は、その後病気と闘いながら、明るく前向きに事業を続けていたが、身体の大事をとって廃業した。現在は病気も治り、就職し、元気に生活している。

ふと鏡を見ると、苦虫を潰したような自分の顔が映っている。不機嫌が服を着ているような、見慣れた姿がそこにある。経営者の一人として、本当に仕事をしているのだろうか?良い会社にするための支援を行っている顔となっているのだろうか?
「幸せだから笑顔になるのではない、笑顔をつくるから幸せになるのだ」という言葉がある。わかっていてもなかなかできていない。
悩みや不安は、生きている以上、必ず訪れる。社長という立場からすれば、人の何倍もの苦難に飲み込まれ、押しつぶされそうになることもあるだろう。
しかし経営のトップに立つものは、笑顔、前向きさ、ポジティブ思考、バイタリティを演じることが、大切な仕事と言えるのではないであろうか?

 

社長の皆さん、後継者の皆さん、今一度鏡を見てみください。経営者としての大切な仕事をしていますか?

(Writer:東條 裕一)