時の重みを知り、時の力と家族の力を借りる

私事で恐縮ですが、昨年10月に息子が生まれました。今、5カ月。ようやく首がすわり、うつ伏せから寝返りの練習をしているところです。
妊娠がわかったのは昨年の1月です。そこから徐々に妻のお腹が大きくなりました。心臓の音がはっきり聞こえるようになり、胎動が傍から見ていてもわかるようになり、難産の末に、ちょこんと生まれてきました。

私は男性なので妊娠中は子どもにしてあげられることは何もありません。せいぜい家事を手伝ったり、妻を励ましたりすることくらいしかできません。それでも子どもはどんどん大きくなって10カ月経ったら人間らしくなって生まれてきたのです。「子どもは自分の力で大きくなる」、「時間が子どもを育ててくれる」と思いました。

何もしなければゼロはゼロのままですが、何かが生まれれば、放っておいても大きくなるのです。「放っておいても」と言うと妻は反論します。「何もしなかったわけじゃないよ。子どもを育てるって決断したじゃない」と。その通りなのですが、私が強く感じたのは、時の流れが子どもを育ててくれるということです。子どもと対面してからのこの5か月間も同じです。体重は生まれた時の3倍になり、身長は15センチも伸びた息子を見て、「俺は何もしてないのに、こんなに大きくなるのはすごいな。時間が流れるってすごいことなんだな」とつくづく思います。子ども自身の力と時の重みと感じます。

「何かを成し遂げたかったら、決断して、準備をして、後は時間に任せればよい」。こう言うと、妻からまた反論です。「私がお腹の中で栄養をたくさんあげたんだよ」と主張します。「時間に任せればいいだけじゃないよ。水をあげたり、栄養をあげたり、お世話しないと育たないよ。植物だってそうでしょう。毎日お水をあげるじゃない。今だっておっぱいあげて大切に育てているよ」。その通りでした。決断して準備して、毎日丁寧にお世話をする。この繰り返しが大事なんです。こんな当たり前のことに、妻と子どものおかげで、ようやく気づきました。

 

事業承継も同じですよね。何の決断もせず、準備もしなければ、後継者は育たず、M&Aもできないかもしれません。後継者候補を作って大切に育てていけばいずれ次の社長に成長することでしょう。社長にならなかったとしても別の形で貢献してくれるかもしれません。

決して過保護ではなく、放任でもなく、意図をもって大事に育てていくことがポイントですね。準備もそうです。社長がポケットマネーを多く貸している場合は、時間があれば少しずつ返していくこともできます。時間の力を借りるということがいかに有効か。事業承継センターの取締役になって4年。「事業承継は早め早めの準備が大切」と言い続けてきましたが、その本当の意味を、自分に子どもが生まれたことで知ることができました。

昔風の考えに「男性は外での仕事を頑張る。女性は子育てを含めた家庭のことを担う」という役割分担的な考え方があります。その考え方が絶対に悪いというわけではないのですが、事業承継という視点で考えるなら、20年先、30年先を見越して後継者を育てていかなくてはならない。そのためには、男性が○○、女性が△△という性別を分けた考え方ではなく、○○と△△を男性と女性が協力し合って行うという考えが必要なのではないでしょうか。事業承継は一族全体の課題です。家族みんなで力を合わせて時間をかけて後継者を育てることが必要なのではないかと思います。

20年、30年という時間を何かを育てることに費やすことができたら、とても大きなことを成し遂げられるでしょう! 今からそんな時間はかけられないよと言われるかもしれません。それでも、今から始めればより多くの時間を使うことができます。時間の力を借りて、家族の力を借りれば、今からでも大きなことを成し遂げられるはずです。三代目が育つかもしれません。場合によっては、より良い形で会社を閉じることができるかもしれません。時間はいつだって我々の味方です。家族は社長の味方です。多くの会社が望ましい形で承継していってほしいと願っています。決断して、準備を始めましょう。きっとうまく行きますよ!

(Writer:石井照之)