節税以外にもこんなにある役員退職金の効果

役員退職金は、1)引退後の生活費、2)いざという時の事業資金、3)納税資金、になるのだから、多少無理してでも取るように、といつもお伝えしています。そして、近年注目されている活用方法が、4)経営承継円滑化法における衡平財産として後継者以外へ相続財産を傾斜配分する、というものです。

実際の例を見てみましょう。

経営者Aは相続財産として、自社株式3億円、現預金1億円、不動産1億円を保有していたとします。
奥様は既に他界されているので、法定相続人は、長男B(=後継者)・長女C・次女Dの3人です。経営者としては、なるべく節税しながら長男に会社を譲りたいので、経営承継円滑化法を採用することにしました。

御存知の通り経営者Aの生前に贈与のタイミングで行うことがセオリーですから、ここで自社株式3億円を長男Bへの贈与して、納税猶予の措置を受けました。しかし、これは長女Cと次女Dから見ると、「長男Bが出し抜いて一人だけ自社株式という財産を手に入れた!」と捉えられるかもしれません。私たちは、ここで家族会議を持つように進言をし、時にファシリテイタ―をすることで、長女C・次女Dに納得をしてもらう、というプロセスを大事にするわけですが、中には納得してもらえないケースもあります。理由は様々ですが、過去の確執、元々仲が悪い、自社株式以外に財産がない、など様々です。

ここで、大事になるのが、冒頭申し上げた経営者Aへの役員退職金です。当事例でいえば、1億円の退職金を支給したとしましょう。この1億円の退職金を長女C・次女Dへの衡平財産という位置づけにし、これをそれぞれに5000万円ずつあげることで、
長男B=自社株式2億円(厳密に計算すると退職金1億円分がぴったり下げることはないが、ここでは簡易的に計算した)
長女C=現預金1億円+現金5000万円(退職金の半分)
次女D=不動産1億円+現金5000万円(退職金の半分)
 …となりますので、これでもまだ長男Bが多いわけですが、納得できるくらいの財産の分配にはなりました。そして、すかさず合意書にサインをしてもらい、経営承継円滑化法における民法特例を行うことで、後々、長女C・次女Dから訴訟を起こされないように手を打っておくのです。

実はこの役員退職金の支給することで、もう一つ大きなメリットが副次的に生じます。それは、経営承継円滑化法上は、役員退職金の支給で下がった2億円の株価は、贈与時の価額で固定されるという仕組みになっているため、経営者Aが亡くなった時に相続財産として、固定された価額(ここでは役員退職金支給後の2億円)として再計算されます。よって、仮に長男Aが抜群の経営センスで邁進した結果、株価が5億円に上昇したとしても、相続財産は固定された価額2億円で計算されますので、長男Aの納税猶予の取消しリスクを軽減させると同時に、長女C・次女Dの相続税も副次的に引き下げる効果をもたらす、ということなのです。

でも、「退職金1億円を長女C・次女Dにそれぞれ5000万円ずつ衡平財産として贈与すれば、今度は贈与税が多額にかかるんじゃないの?」という声が聞こえそうです。これはもっともな考え方です。そこで、経営者Aには一時払終身保険に加入してもらい、保険自体を長女C・次女Dに贈与、つまり契約者変更をするのです。「えっ?!現預金があるなら、それをそのまま贈与すればいいじゃないの?」という疑問も出そうですが、生命保険の名義変更は、名義変更時点の解約返戻金相当額が「みなし贈与」となりますが、名義変更時点では課税されないという相続税法基本通達3-36があるのです。

ここではこの通達の詳細の説明は省きますが、とにかく、退職金の支給は、このように様々なメリットがあるということを覚えておいて損はないでしょう。後継者、そして後継者以外の相続人のために、経営者は役員退職金を支給してもらうことをぜひお勧め致します。経営者の皆さん、堂々と胸を張って、役員退職金を自分の会社から支給してもらいましょう(笑)!

(Writer:金子 一徳)