ある日突然「株式を買い取ってほしい」と言われたらどうしますか?

ここ、最近寄せられる相談の中で多いのが「株主から買い取り請求をされたが、どのように対応したらよいのでしょうか?」というものです。

通常だと、いきなり会社(中小企業の場合だと代表取締役)へ買取り請求をするということはありませんが、事業承継のタイミングに近づいてくると、株主も年を取ってきて、思わぬ行動してくる場合が多く、最近はこのような事例が増えています。

会社法の観点から言えば、株式買取請求権は、行使する機会・行使可能期間・価格決定申立期間が限定されており、株主がいつでも自由に行使できるものではありません。では、どんな時に買取りを請求できるかといえば、M&Aなどの組織再編行為、あるいは株式併合等に反対する場合などに基本的には限定されるのです。

つまり、中小企業における株主は、一度株主という地位になってしまえば、上場企業のように株式市場を通じて自由に株式を売買することもできませんし、M&Aもそうそう頻繁に起きることはありませんから、換金するタイミングは極めて限定されてしまいます。極論すると、中小企業の株主は、会社法上は、株式買取請求権は存在しないのも同然なのです。

一方で、中小企業の定款には、「当会社の発行する株式の譲渡は,取締役(もしくは株主総会)の承認を受けなければならない」という譲渡制限がついている会社がほとんどですから、勝手に第三者に株式を譲渡することも出来ません。だからといって経営者は、「株主は勝手に第三者に株式を売ることもできないし、買取り請求も受けることはない。」と高を括っていると、ある日突然こんな請求を受けることになるかもしれません。

 

「株式をとある人に譲渡したいので、認めてほしい。」

会社法は、会社への買取り請求を簡単には認めていませんが、一方で『株式譲渡の自由の原則』を認めています(会社法127条)。この違いは簡単にいうと、会社へ譲渡するか、第三者へ譲渡するかの違いとなります。

例えば現株主A氏から「B氏に株式を譲渡したい」という譲渡承認請求があった場合に、定款の規定通り取締役会(もしくは株主総会)でそのB氏への譲渡を否決することは可能です。しかしながら、ただ否決するだけは許されず、会社としては、別の第三者であるC氏を見つけてきて「C氏へ譲渡するなら認める」とするか、もしくはC氏という存在が見つからなければ、自己株式として買い取らなければいけないのです。なかなかC氏という第三者を急に見つけることは困難でしょうから、実務上は自己株式として会社が買い取ることが多いわけです。そうすると、株価が低ければいいですが、高い場合は資金繰りに奔走するなどたいへんな事態になります。

この一連の流れは意外と期間が短く、
① 譲渡承認請求が来てから、2週間以内に株主総会による決議を経て通知(会社法139条⇒注:通知しない場合は譲渡承認したとみなされる)

② 上記の通知をしてから株主総会の特別決議を経て、自己株式による株式買取りの場合は40日以内に、第三者による株式買取りの場合は10日以内にその旨を通知(会社法145条⇒注:通知しない場合は譲渡承認したとみなされる)

③ 株式買取り価格の決定は当事者間の協議が原則ですが、妥結できない時は、価格決定の申し立てを②の通知から20日以内に裁判所に対して行う(会社法144条⇒注:申し立てをしない場合は供託額が譲渡代金となる)

・・・となっておりますので、初めて譲渡承認請求を受けると、あっという間に期日が訪れるなど、単独で対応するにはかなり難しい手続きといえるでしょう。

もちろん、B氏への譲渡請求にたいして、「どうぞ、どうぞ、弊社の株式を持ちたいという方がいるのであれば持って頂いて結構です」と言えば、会社側ではお金を用意する必要がありませんので、そういう選択もありです。しかし、胸に手を当てて考えてみて頂きたいのですが、上場していない(あるいはこれから上場する可能性がほぼない)中小企業の株式の一部だけを持ちたいと考えるB氏とはいったいどういう株主なのでしょうか?後で株主の権利を持ち出し、会社を散々振り回した上、最後は高額の株式買取り請求を行ってくる、という流れになることはだいたい想像できます。(実際にそれを商売にしている者もいます)こうなりますと、株式買取りのコストだけでなく心理的・物理的な負担が増し、肝心の経営まで悪影響を受ける可能性も出てきますので、よくよく考えて返事をすべきでしょう。

・・・と考えていきますと、経営者は、株式買取り請求を直接受けることはないが、結果的には買取らなければならないというリスクを常に持っている、という事実を知っておき、常にこうした事態に備えておく必要があるのです。事業承継のタイミングでは、代表取締役と株主の関係性が変わるタイミングでもあり、このような相談が今後も増えていくことでしょう。

(Writer:金子 一徳)