増える労務コスト。日本のために背負えますか?

1.企業の負担は増大している
働き方改革という言葉が、もう特別な響きではなくなった。中小企業においても残業代の増加、有給休暇取得の厳格化、育児休暇など、多くのコスト増が突きつけられている。どれもこれも、社員を会社人として見るだけでなく、生活者として見る、いわゆるライフワークバランスを目指すものなのだろう。

経営者にとっては、たまったものではない。売っても売っても高い労務コストに利益を削られていく。そしてますます労働者の働く条件だけが良くなっていく。「日本は世界で最も社会主義的な国だ」と、労務コストの増加や、労働者の権利の強化に嘆いている経営者も少なくない。
もちろん、大切な社員が働きやすく、生活しやすい状況になるのは望ましいことである。しかし、借金の保証人となってリスクを背負っている経営者の権利が、相対的に下がっていく様は、仕方ないとはいえ納得がいかない。これは筆者も同じ気持ちであった。

 

2.問題は何か
最近の筆者は、考えが変化してきている。
それもこれも、子供を増やす環境の整備であると考えれば、全て合点がいくのである。

生産及び消費の担い手である生産年齢(15歳〜64歳)人口は1995年から、寿命が長くなる中においても総人口は2008年から、減少局面に突入している。2020年は、女性の人口の過半数が50歳以上になったということである。人口維持には2.06~2.07必要だと言われているのに、2021年の合計特殊出生率は1.30である。行きつくところは老人ばかりの国だ。移民を受け入れればという意見もあるかも知れない。しかし、かつての金持ち国家ニッポンではなく、バブル崩壊から物価も平均年収も上がっていない国に、働きに来たいという外国人がどれだけいるだろうか?人が減るから生産性が云々と言うが、買い手も減ることが問題なのである。
イーロンマスク氏は言った。「出生率が死亡率を超えることがない限り、日本はいずれ消滅するだろう」

 

3.国の構成員としての責任
景気の停滞も、物価が上昇しないのも、平均賃金の頭打ちも、その原因の大きな要素は子供が生まれないことである。子供をもうける年齢層が急に増えることはない。現在の10代が10年後に2倍になることはないわけであり、人口減少は前々からわかっていたことである。しかし、有効な手立てを打ってこなかった政府には大きな責任がある。それに加えコロナウイルスが、男女の出会いの場を奪ってしまい、出生率低下に拍車をかけた。

経営者にとって、労務コストの上昇は、厳しい現実である。しかし.子供を産みやすい、育てやすい環境を作ることは、政府、行政、個人、そして企業それぞれが担わなければならない課題なのだと思う。一人ひとりの経営者が、自分ゴトとして、人口増加に取り組む意識が求められるのである。今頑張っても、すぐには変えられない厳しい現実がある。でも今からやらなければ日本は確実に衰退する。それは日本の経済、日本の企業が衰退することを意味する。

コスト増を受け入れず、泥船に乗ることを受け入れるのか。コスト増を受け入れて、船をもう一度つくりあげるのか。長期的ビジョンを持って、国全体で活力を取り戻さねばならない。その中で企業に、経営者に求められる役割は小さくない。

増える労務コスト。日本のために背負えますか?

(Writer:東條 裕一)