社会全体で子育てをして、社会全体で後継者を育てる

1.行きつくところは老人ばかりの国

 1人の女性が生涯に産む子どもの数に該当する合計特殊出生率は、2021年は1.30でした。2022年は出生数が減少しており、合計特殊出生率はさらに低下すると言われています。人口を維持するためには2.06~2.07が必要なのですが、1975年以降2.0を下回っており、人口維持どころか、人口が減少する状況がもう何年も続いています。「行きつくところは老人ばかりの国だ」とは、先のジャーナルの記事の中の言葉ですが、この傾向が続けば経営を担う経営者候補も少なくなり、中小企業の経営者の多くが「老人ばかり」となることが容易に想像できます。

 老人の知恵は経営には不可欠です。同時に、大きく変化する新しい時代に対応するためには若い感性も必要です。若い経営者や後継者が増えて、高齢の経営者と融合しながら事業承継が進むのが理想です。そうなるためにはどうしたらよいのでしょうか? まずは、中長期的に子どもの数を増やすことです。

 

2.子どもの数を増やす対策

 子どもの数が増えるためには、出生数が増えればよい。そして合計特殊出生率が増加するとよい。合計特殊出生率は、有配偶率(結婚しているかどうかを示す指標)※①と、有配偶出生率(結婚している女性の出生数)※②に分解できます。ここでは、有配偶出生率に着目して考えてみます。

 

 有配偶出生率は、子育てのしやすさと関連します。妊娠から出産の期間は女性の時間を拘束します。子育ての期間も同様に女性の時間を拘束します。男性も子育てをしますが、子育て時の心理的負担や身体的負担は女性の方がより多く担っているのが現状です。先のジャーナルによると「増える労務コストは、子供を増やす環境の整備のため」に使うということです。

 私は大賛成です!子どもを増やす環境を整備するために、労務コストは出産から子育て期の女性の負担を軽減することに還元されるべきと考えます。男性がもっと多くの時間を育児に費やせば女性の負担は軽くなるので、男性が育児休暇を取りやすい環境を整えたり、育児スキルを高めることにも還元するとよいです。

 また、有配偶出生率は女性の働く環境やキャリア構築にも関連します。有配偶出生率を高めるためには、女性が妊娠、出産、育児によって働く機会やキャリアアップの機会を奪われないようにしなければなりません。仕事を休んだり、辞めたりする必要がない社会を実現しなければなりません。

 

3.合計特殊出生率が高く、かつ出産~子育て期の女性の就業率が高い地域の特徴

 合計特殊出生率が全国平均よりも高い地域の特徴として、出産~子育て期の女性の就業率が高いことがあげられます。また、仕事時間が長いことも特徴です。

 合計特殊出生率が高く、かつ出産~子育て期の女性の就業率が高い地域の特徴とは、どのようなものでしょうか?主に次の3つがあげられます。

①三世代世帯同居率が高い

②潜在的保育所定員率が高い

③通勤に要する時間が短い

 例えば、三世代世帯同居率が高ければ、妊娠から出産、子育て期の女性を家族が一丸となってサポートする体制を構築しやすいです。子育て期の女性は安心して家族に子どもを預けて仕事に行けます。

 通勤時間が短ければ、子育てに費やす時間が増えます。何より、女性が自身のからだを休ませる時間が増えます。

 

4.「シッター」と「ナニー」という仕組み

 三世帯世代同居率を高めるためにはどうすればよいのでしょうか?

 我が家は今、子育ての真っ最中ですが、私も妻も両親を亡くしており、頼れる親はいません。よって、三世代世帯ではありません。育児や家事を手伝ってくれる人がいたらどれだけ助かることでしょう。共働きなので、なおさらです。

 このような時に知ったのが「シッター」と「ナニー」という制度です。「シッター」という言葉は知っていましたが、利用したことはありませんでした。「ナニー」とは、保育に関する資格や知識を持っている教育的なサービスを提供できるベビーシッターのことです。私は「ナニー」という言葉は知りませんでした。

 我が家もありがたく利用させてもらっています。我が家に来てくださっているシッターさんやナニーさんは、20歳代や30歳代の人もいますが、50歳代以降の方が多いです。子育てが一段落したり、子育てが終わった50歳代以降の方がシッターやナニーとして登録して働いているということが新鮮な驚きでした。シッターやナニーの制度を活用すれば、三世代世帯を実現できるのではないかと気づいたのです。

 社会全体で子育てするという仕組みを整えれば、血はつながっていないかもしれませんが、三世帯が同居していることと同じ環境を作ることができる。そのためにはシッターやナニーの数を増やさなくてはなりませんし、提供するサービスの質も高めなければなりません。

 課題はありますが、可能性は無限です。一家族単位で見たら難しいことも、社会全体で見たら実現できるということです。仕組み化なのです。

 

 このような仕組み化の実現にコストを活用してほしい。子どもが増えれば将来の後継者も増えます。社会全体で子育てをして、社会全体で後継者を育てる。その仕組みをどう作ればよいか。知恵とコストを注ぎ込みたいと考えています。増える労務コストは社会のために上手に使いたいです。

 

注①「有配偶率」:15~49歳について日本人女子人口に対する有配偶女子人口の割合です。

注②「有配偶出生率」:国勢調査による配偶関係の「有配偶」「未婚」「死別」「離別」のうち、「有配偶」の女子人口を用いて算出した有配偶女子人口千人に対する嫡出出生数の割合です。

 

Writer:石井 照之