コロナ禍が去り、ようやく平常時に戻って社会活動が活性化してきました。
しかし、街の様子は以前とは違っていませんか?
特に飲食店やサービス業においては、人手不足が深刻化しています。それも若い人がとにかく足りないのです。なぜそのような現象になったのでしょうか?
ひとつは、高齢者が無理を重ねて頑張ってきた飲食店が、コロナという大義名分で、辞めやすくなったのです。先祖から、先輩から引き継いだお店や事業を、自分の代で辞めてしまっても、それが許される社会的な風潮が生まれています。
老々介護という言葉と同様に、高齢経営者と高齢社員。そして顧客も高齢化。そんな互いの年齢ゾーンがかぶっている集団が、持ち合いによって互いを支えながら生きながらえてきました。
名店、老舗と言われる店舗でも、のれんや伝統を受け継ぐ若手が居なければ、廃業は経営内容の良い悪いを超えて、普通に発生します。私が30年間にわたって通い詰めた蕎麦の名店も、一生懸命継続を口説いても、店主はそれに応えようとはせず、ただ「もう終わりにしようと思う」そう言って、一方的に閉店してしまいました。
こうした現実に対して、私たちは何を支援すべきなのでしょうか?
すべての事業承継支援の鉄則は、「早めの準備」なのです。
蕎麦屋のご主人は80歳を目前にして、自分の気力が減退し、体力が衰えていくことに絶望していました。そんな彼にかける言葉は、「若い人を育ててみませんか?」なのですが、ここに人手不足の大きな壁が立ちはだかって、幹部候補生や、後継者候補という有能な人が採れないのです。まして、子どもたちから継がないと宣言されて、従業員からも社長の苦労は嫌だと言われてしまったら、何を支援の柱にすべきでしょうか?
ここでクローズアップされるのが、「事業承継型のM&A」なのではないでしょうか?
企業を売買するのと同じ感覚で、店舗を居抜きで看板と従業員もまとめて買収することです。とりわけ大きな売買資源は、「のれん」「顧客名簿」「仕入れ先との関係性」「従業員」などの、目に見えない経営資源なのです。
今までは、店舗の土地建物や、機械備品、在庫商品などの「決算書に数字が乗っている」目に見えるものの価値を中心に売買価格が決められてきました。
しかし、第三の資産(①土地建物②株式につぐものとして)として、明確に見える化を行い、その価値を数字で示すことが必要になります。
これから将来に向かって、0から始めるよりも、すでになじみ客があることが、大きな意味を持つ場合が多くなります。
飲食店は、店主の年齢によって、賞味期限が見えてきます。
高齢化のドグマに落ち込まないうちに、現社長がお元気でやる気に溢れているうちにこそ、専門家と相談を始めて、未来の店舗や会社のあるべき姿を話し合うべきなのです。
はじめの一歩をいつ始めるべきなのか?
それは、事業承継に気が付いた、「今が最高のタイミング」なのです。
事業承継士の皆さんは常にアンテナを高くして、経営者が中年に差し掛かった段階から、関係性を保ち、情報交換を始めてください。「まだはもうなり」手遅れにならないことが最善と思って、嫌われることを恐れずに事業承継計画の立案を提案してください!
(Writer :一般社団法人事業承継協会 代表理事 内藤博)