「株券の不発行」は絶対設けるべき定款の項目だ!

最近お客様のところへ行ってコンサルティングする時に、「もっと早く相談してもらえば、定款変更だけで済んだのに」と思うことが多々あります。そこで、今回は、定款に早めに規定しておいた方がいい項目についてお話しします。

定款における<株券の不発行>は絶対設けるべき項目の一つです。会社法が施行された2006年5月1日以降は、定款に定めのない限りは原則として株券は不発行として取り扱われることになりました。ところが、かなりの会社にいまだ「株券を発行する」という規定が残ってしまっているのをよく見かけます。この規定が残っていれば、当然優先されますので、定款変更をして「当会社の発行する株式については,株券を発行しない。」という規定を設けるべきです。(会社法施行より以後に設立された会社の場合は、規定がなければすべて株券の不発行会社となります)

そのまま株券発行会社にしておけば、株式の移動(売買や贈与)が起きるたびに株券を提出して、名義書換えなどをしないといけないので、こうしたやりとりのたびに顔を合わせたりするという心理的な壁が立ちはだかって、いざ買い集めたいという時に意外と交渉がうまくいかないということが起きたりします。それに、株券を発行していると紛失や盗難のリスクもあります。

またよくあるパターンですが、株式を贈与により経営者から後継者である長男に対して、暦年贈与(1年間で110万円の贈与の範囲であれば無税となる制度)で何十年にもわたって贈与をしているとしましょう。株主名簿も毎年書き換え、税務申告書の別表2も毎年修正して提出していたとします。もちろん、贈与契約書も毎年作成し、経営者と後継者で持ち合っています。これだけやっていても、株券発行会社の場合、実物の株券を物理的に移転しなければ、贈与は無効となるのです(会社法128条1項)。つまり、何十年もかけて株式贈与をやってきた行為自体が無効になる、なんてことも起きうるのです。

さらに、株券を発行していますと、“善意取得”という状況を招くこともあります。株券の占有者はその株券にかかる株式についての権利を「適法に有するものと推定する」という原則があるのです。つまり、株券保有者から株式を取得した第三者は善意・無過失で株券の交付を受けたのであれば、例え譲渡制限の条文が定款にあったとしても、その株式の権利を取得できるのです。この第三者が会社に対して「承認するか否かの決定をすること」を請求してきた時は、会社がこの株式取得を承認しない決定をする場合には、①会社が対象株式を買い取るか、②指定買取人を指定することを請求するか、の2つになります。この流れになりますと、株式所有者の思惑通りになってしまうことも想定されるのです。この事態は、定款でよく見かける「当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を要する」という文言があったとしても防ぐことはできません。もちろん、株式の譲渡が行われた場合には、会社側は名義書換請求を拒むことはできますが、当事者間ではその株式譲渡は有効だと最高裁判所判例で示されているからです。

このような状態になってしまった場合、事業承継どころではなくなり、まずは株主を確定する、という前段階から処理していかなくてはならないのです。『株券は不発行にしておく』、この大原則を忘れないようにしておいてください。

(Writer :金子一徳)