経営者にとって、一番つらい時とは?

経営トップにとって、辛く厳しい「時」とは、どのような場面でしょうか?
やはり、ご相談が多いのが「売上ダウン」に関することです。

どんなに仕事に手慣れているトップでも、予期せぬ売上高の減少を目の前にすると、大局観がなくなりがちです。視野が狭くなり、一点に集中しすぎて周りが見えなくなります。
手慣れている目の前の仕事に集中しているときは、充実感もあり、自然に手も動き、成果も上がりますね。それこそ、楽しく充実した時間が過ごせます。

ところが得意先に断られ、自分が今まで成功してきたパターンが通用しなくなると、心が折れるほどの自信喪失に陥る人もいます。
そうした不安感が、心の大半を占めてしまうと、マイナスイメージがどんどん膨らんで、失敗の局面しか「想像」できなくなってしまいます。

皆さんご存じの通り、人間の文明史は、頭で創造した、まぼろしのような「夢を形に変える」歴史でもありました。
「こうなったら良いのになあ~」
「こんなモノが欲しいなあ~」
イメージというか、ウオンツというか、とにかく人が「頭と心」で考えて作り出したドラマ、これを実物へと変えていく作業が、連綿と繰り返されてきたのです。

あるときには、途中までやりながら失敗して人生を終えてしまった人の、仕事の残骸を前にして、「どうしてうまく行かないのだろう、やり方を変えてみよう」という発想の転換が生まれます。

いつもと違うミッションに挑戦し、未知の世界をさまよいながら、先人の残した知恵のカケラを拾い集めて、知恵を再構築していくのです。
経営の世界で言えば、先代経営者の知恵を生かしいて、新しい発想をエッセンスとして加えながら「経営革新」を行う事なのです。

問題はそのための時間稼ぎが出来るか、食いつないでいくための仕事を維持できるか、投下する資本が続くのか。
なかでも経営が一番厳しい局面を迎えるのが、最大のリソースである「時間」を失うときなのです。

私は先日、かかりつけの医師から「加齢」が原因ですから、「あきらめて慣れることが必要です」と言われました。
「治癒」しない。若いときのように「元には戻らない」そう宣告されました。

これは厳然とした〆切りが目の前に現れたことを意味します。

「もう少し人生が長ければ、成功まで走り抜けたのに、くやしいなあ」そう思われる方も、「いやいや、これまで十分働いたから、満足です」と言う方もおられます。

どのような思いの方でも、人生の幕が降ろされる日を予見したならば、逆算タイマーを動かして準備を始めましょう。

あと20年もカウントできるかな?
それとも・・・・
残る時間が明確に意識されれば、無駄はいやですし、無理もしたくない。
まして、今まで為してきたことが無に帰するような、リスクは絶対に避けたいと思うものでしょう。

だから、私は「事業承継」に賭けたのです。
個人が溜め込んできた経験に基づく知恵や勘。目に見えない、教えても簡単には伝わらない、そういうソフトな経営資源をいかにして後継者につなぐかということを、体系化し優しく解説していくことを、自分の生涯の目標と定めました。

今年はその実現の第一歩である、「事業承継士」の勉強会を立ち上げました。
いかなる成果が産み落とされるか。
皆さまの前にお披露目できる日が近いことを願いつつ、大局観を失わないように経営していきたいと思います。